「ポケモンGO」大学の研究者に刺激。位置情報ゲームで社会課題に向き合う
社会がGPSをオフからオンに。健康増進や防災教育などにデータ活用広がる
スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」が大ヒットし、位置情報ゲームの社会的効果が見直されている。ビジネスだけでなく、大学の研究者に与えた影響も大きい。特にITを使って社会課題の解決を目指す社会実装研究に衝撃を与えた。健康増進や防災教育などに位置情報ゲームの活用を試みる動きが広がっている。
「ポケモンGOで、皆の研究が一度リセットされた。いったん研究を棚卸しして、次に何をやるか考えないといけない」と慶応義塾大学の常盤拓司特任講師は説明する。ポケモンGOは5億回もダウンロードされた。常盤講師は「陣取り合戦が地球規模に広がった。これから育つ子どもたちは、我々が公園で遊んだ感覚で“地球”で遊ぶことになる。研究の前提を考え直す」という。
社会課題を扱う社会実装研究にとって、位置情報ゲームは目新しい技術ではない。スマホの全地球測位システム(GPS)とゲーム化の手法を使って、インフラ点検や観光客誘致などに挑戦する例はあった。
道路の損傷箇所を撮影して集めるゲームや商店街スタンプラリーなどが開発されてきた。ただゲームとして完成度が低く、広く普及するには至らなかった。ゲームを盛り上げるためにチーム間競争やコレクション、トリビア(豆知識)などの要素を取り入れ、バランスを整える必要があった。
立命館大学の野間春生教授は歩行距離の延長アプリ「ぐるペコ」を開発する。ユーザーの生活圏に寄り道スポットを置き、さりげなく運動量を増やす。寄り道スポットを発見したプレーヤーに得点を与えるゲーム形式で、高得点者は景品がもらえる。野間教授は「機器や通信費などの負担をユーザーが受け入れ、コストが極めて安くなった。今後はゲームとしての魅力が重要になる」と指摘する。
この技術を応用し、滋賀県長浜市などとウオーキングイベントを開いている。チーム戦で総歩行距離を競い、5人で10日間、合計200キロメートル歩くのが目標だ。イベントでは、景品よりもウオーキング仲間の存在が運動の持続につながることがわかった。
「職場仲間と昨日は何キロメートル歩いた。ライバルは10キロメートル歩いているなどと参加者同士の会話が増えた。仲間はゲームの魅力」という。イベントで仲間づくりを促し、運動習慣を定着させる。
位置情報ゲームのスポットに込められたトリビアは魅力の一つだ。ポケモンGOで地域にある社(やしろ)や記念碑の多さに驚いたプレーヤーは少なくなく、地域の再発見につながった。慶大の厳網林(ゲン・モウリン)教授はこのトリビアを防災教育に生かす研究を進める。
津波の到達線や遺構をゲームのスポットに利用。スポットを訪れると数世紀前の災害の記録を表示する。「防災はコミュニティーづくりが一番難しい。訓練や教育などの活動を20年、50年と世代を超えて続けることが最大の課題だ」と指摘する。
災害の記録をゲームに潜ませれば普段から災害情報に接し、防災への感度が高くなる。子どもが普段遊び慣れたスポットの意味を防災の授業で再発見すると教育効果は高い。
もともと厳教授は土木計画や地理情報システムの研究者で、GPSを使った広域鬼ごっこゲームを開発していた。位置情報をヒントに互いを探し、相手を写真に収めた方が勝ちだ。
このシステムを利用した防災ゲームの開発を進めている。災害の遺構を巡ってポイントを集めながら、互いを捜索するスパイゲームを構想する。
課題はトリビアとなる災害情報を誰が登録するか。厳教授は「各地域で作られる防災マップや観光マップが標準化されておらずもったいない。形さえ整えておけば位置情報ゲームに取り込める」と指摘する。例えば市民の手で災害情報を登録すれば、登録者自身が語り手になれる。後世や家族、地域に防災への思いを伝える。
スポット情報からコミュニティーの顔が見えると、観光客や転入者などの新参者にとっては親しみがわく。「位置情報ゲームにとっても語り手や歴史、物語の存在は魅力になる。防災コミュニティーをつなぐ役割を担える」と期待する。
<次のページ、流行を可視化し地域ごとに音楽流れる>
「ポケモンGOで、皆の研究が一度リセットされた。いったん研究を棚卸しして、次に何をやるか考えないといけない」と慶応義塾大学の常盤拓司特任講師は説明する。ポケモンGOは5億回もダウンロードされた。常盤講師は「陣取り合戦が地球規模に広がった。これから育つ子どもたちは、我々が公園で遊んだ感覚で“地球”で遊ぶことになる。研究の前提を考え直す」という。
社会課題を扱う社会実装研究にとって、位置情報ゲームは目新しい技術ではない。スマホの全地球測位システム(GPS)とゲーム化の手法を使って、インフラ点検や観光客誘致などに挑戦する例はあった。
道路の損傷箇所を撮影して集めるゲームや商店街スタンプラリーなどが開発されてきた。ただゲームとして完成度が低く、広く普及するには至らなかった。ゲームを盛り上げるためにチーム間競争やコレクション、トリビア(豆知識)などの要素を取り入れ、バランスを整える必要があった。
《健康》寄り道で得点、歩く距離長く
立命館大学の野間春生教授は歩行距離の延長アプリ「ぐるペコ」を開発する。ユーザーの生活圏に寄り道スポットを置き、さりげなく運動量を増やす。寄り道スポットを発見したプレーヤーに得点を与えるゲーム形式で、高得点者は景品がもらえる。野間教授は「機器や通信費などの負担をユーザーが受け入れ、コストが極めて安くなった。今後はゲームとしての魅力が重要になる」と指摘する。
この技術を応用し、滋賀県長浜市などとウオーキングイベントを開いている。チーム戦で総歩行距離を競い、5人で10日間、合計200キロメートル歩くのが目標だ。イベントでは、景品よりもウオーキング仲間の存在が運動の持続につながることがわかった。
「職場仲間と昨日は何キロメートル歩いた。ライバルは10キロメートル歩いているなどと参加者同士の会話が増えた。仲間はゲームの魅力」という。イベントで仲間づくりを促し、運動習慣を定着させる。
《防災》災害の記録、子どもに伝える
位置情報ゲームのスポットに込められたトリビアは魅力の一つだ。ポケモンGOで地域にある社(やしろ)や記念碑の多さに驚いたプレーヤーは少なくなく、地域の再発見につながった。慶大の厳網林(ゲン・モウリン)教授はこのトリビアを防災教育に生かす研究を進める。
津波の到達線や遺構をゲームのスポットに利用。スポットを訪れると数世紀前の災害の記録を表示する。「防災はコミュニティーづくりが一番難しい。訓練や教育などの活動を20年、50年と世代を超えて続けることが最大の課題だ」と指摘する。
災害の記録をゲームに潜ませれば普段から災害情報に接し、防災への感度が高くなる。子どもが普段遊び慣れたスポットの意味を防災の授業で再発見すると教育効果は高い。
もともと厳教授は土木計画や地理情報システムの研究者で、GPSを使った広域鬼ごっこゲームを開発していた。位置情報をヒントに互いを探し、相手を写真に収めた方が勝ちだ。
このシステムを利用した防災ゲームの開発を進めている。災害の遺構を巡ってポイントを集めながら、互いを捜索するスパイゲームを構想する。
コミュニティーをつなぐ役割を担う
課題はトリビアとなる災害情報を誰が登録するか。厳教授は「各地域で作られる防災マップや観光マップが標準化されておらずもったいない。形さえ整えておけば位置情報ゲームに取り込める」と指摘する。例えば市民の手で災害情報を登録すれば、登録者自身が語り手になれる。後世や家族、地域に防災への思いを伝える。
スポット情報からコミュニティーの顔が見えると、観光客や転入者などの新参者にとっては親しみがわく。「位置情報ゲームにとっても語り手や歴史、物語の存在は魅力になる。防災コミュニティーをつなぐ役割を担える」と期待する。
<次のページ、流行を可視化し地域ごとに音楽流れる>
日刊工業新聞2016年9月20日