リニア、日比谷にみるニッポン・ゼネコンの“掘削力”
長短それぞれに得意技磨く
多様な岩盤攻略、詳細な情報得て安全・円滑に
日本の山岳は複雑な地形の上に多様な岩盤が混在し、工事が難しい。南アルプスの山岳トンネル工事では、ゼネコン各社がこれまで磨いてきた最高技術の投入が必要だ。
山岳トンネルの標準的な施工は(1)掘削(2)岩石搬出(3)コンクリート吹きつけ、ロックボルト打ち込み(4)コンクリート打設(覆工コンクリート)。重要なのが施工前に実施する地質調査だ。通常はボーリングを行って地質状況を把握する。詳細な情報を得ることで必要な対策がとれ、安全で円滑に施工できる。
地質調査で威力を発揮する技術に、大成建設の「穿孔(せんこう)振動探査法T―SPD」がある。先進ボーリングマシンが穴を開ける時に生じる小さい振動の弾性波を、トンネル側壁に埋め込んだ受振器で測定。前方に岩盤が不安定な断層破砕帯がある場合は、位置や規模を把握できる。「トンネル掘削面の前方約500メートルの区間まで評価できる」(谷卓也土木技術研究所地盤・岩盤研究室岩盤チームチームリーダー)という。
掘削時に発生する大量の岩石の搬出については、効率的な処理が求められる。清水建設が提案するのは、高速搬出が可能な「S―マックシステム」。トンネル掘削面の近隣に仮置き場を設置し、重機2台の稼働率をあげて岩石処理を行う。
(重機の稼働率を上げて岩石搬出=清水建設の「S―マックシステム」)
連続ベルトコンベヤーと組み合わせることで「高速施工を実現し、工期短縮を期待できる」(鈴木正憲土木技術本部機械技術部主査)とし、従来比で33%の時間短縮を見込める。
トンネルの仕上げ段階となる覆工コンクリートの施工では、品質確保が重要だ。大林組の「連続ベルコン通過型テレスコピック式セントル」工法は、覆工コンクリートの品質向上と高速作業を両立する。
二つのアーチ型の型枠を運用し、コンクリートの養生時間を確保しながら打設作業を実施。同時に、掘削面からの岩石搬出も行える。中間祥二生産技術本部トンネル技術部長は「連続ベルトコンベヤーとの組み合わせで実現した」と説明する。
各社の「ベスト」必要に
≪私はこう見る≫京都大学大学院工学研究科(社会基盤工学専攻)教授・朝倉俊弘氏
南アルプスの山岳トンネル工事は、地表から深いため闇の中を手探りで掘り進める感じだ。まず難しいのが地質調査。水平ボーリングなどを先行させ、地質情報を得ながら掘削することになる。この情報を施工にどう反映できるかが重要だ。
高水圧がかかった状態で大量の湧水が発生する可能性もある。地質が悪いとトンネルに圧力がかかりさまざまに作用する。水圧・地圧への対応が必要だ。一般の山岳トンネルでも同様の問題を抱えるが南アルプスは問題の程度が大きく難度が上がる。
基本的にはすでにある技術で対応できる。ただ、各社のベストの技術を組み合わせて投入することが必要だ。腕の良い地質エンジニアの存在が重要となるだろう。(談)
※内容、肩書きは当時のもの