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ソニー・十時、ヤマハ発動機・西城、ZMP・谷口が語るオープンイノベーションの未来

ベンチャーも大企業も関係ない。好奇心とオーナシップを持つ人と人が共創する
ソニー・十時、ヤマハ発動機・西城、ZMP・谷口が語るオープンイノベーションの未来

左からソニーの十時氏、ヤマハ発動機の西城氏、ZMPの谷口氏


大学に対す期待は高い


 本田 ブームと言われているオープンイノベーションは今後大きな流れになるのか、ブームで終わりそうなのか。藤元さんはどう見ていますか。

 藤元 トレンドは続くのではないか。大企業は自前主義でイノベーションが起こしづらくなっている。テクノロジーのサイクル期間も短く速くなっている。外部の能力や特許を取り入れた方が手っ取り早いですから。

 先日、日刊工業新聞で研究開発アンケートを実施しました。オープンイノベーションの関心は高い。質問で、大企業に組む相手を聞いたところ(複数回答)、1番が大学で8割強。その次が7割でベンチャーでした。大学に対する期待は高いですね。

研究のスポンサーシップが大企業から投資家に


 本田 ソニーもアクセラレーションプログラムからCVCへ延長していくことをやり始めようとしています。十時さんはオープンイノベーションの流れをどのように見ていますか。

 十時 昔、中央研究所が大企業にはたくさんあった。効率的な資本主義を追求していくと、結果が良くみえないものはだんだん削られていく。日本企業で中央研究所のような存在はかなり減ったのではないか。

 その代わりに大学が受け皿になっているのだと思う。大学だと資金をすべて調達できないので、VCやシードアクセラレーターなどがエコシステムとして入り込んできたのが流れだと思います。

 前は大企業の中で「面白そうだからやってみなはれ」というスポンサーシップが投資家に代わってきた、スポンサーが多様になったということ。インダストリーとして必ず基礎研究は必要な機能なので、大きい視点で見れば、その形を変えてだけであって、しばらく置き換わりが続くでしょう。

 本田 イノベーションでベンチマークする国は。

 十時 シリコンバレーは当然しますよね。あと面白いのはイスラエル。あの国の生業、ベンチャーの起こり方は面白い。北欧も人口は少ないけれども、スーパーセルだとか、古くはレゴだとか、インキュベーション文化がある。

「ブームが終わったら僕の勝利」(西城)


 西城 あえて刺激的に言うと、僕はブームを終わらせるために、今、この仕事をやっている。なぜか。事業会社はもともといろいろな事をやれていた。大学との連携だとか、ユニークなアイデアを持った企業とのコラボとか。それを合理主義とか効率経営で排除してきた。

 オッズの高いものはやめようと。それで成長したいと思った時にはもう残っていないのが今の状況。それで外部と組まないといけないと、という話になっている。

 僕は悔しいですね。ベンチャーはリスペクトしてますけど、事業会社として「なにくそ!」と思っています。CVCをやる気はさらさらなくて、事業会社が生きる土壌、文化を創るのが私の目的。ブームが終われば僕の勝利と正直思っています。

 ただ逆のことを言うと、いろんなインダストリーが成熟期を迎えていて、一番大きな産業、プロダクツでいば自動車。若い人のデマンドが非連続的に変わりつつある。いろんな潮目が変わってきていて、産業そのものを再定義することと呼応するようにいろんな技術がアベイラブル(入手できるように)になってきた。

 さまざまな要素が重なり価値が変わり始めている。そうすると、既存のプレーヤー、自分たちが見ていたダイレクション(方向性)だと足りない。そこでいろんな人と「共に創る」という動きは今後も増えていくと思います。

 本田 西城さんのいう非連続的な事業は、「飛び地」でやっていった方がいいのではないかと思いますが。

 西城 今ここの場所からみると、非連続事業はは飛び地なんですけど、飛び地から既存事業をみると、新たに見えるものがあるかもしれない。視点の問題だと思う。

 ヤマハ発動機はメーンビジネスとしていくつかのプロダクツやサービスがある。バリューを作る手段はいっぱいあって、例えば、スポーツバイクでいうとエクストリームな体験だと思う。その時にコンペチターはVR(仮想現実)になる。提供されるのは同じエクストリームな快適。そういう考え方ができるかがポイントです。

 本田 次のステップは。

 西城 僕はヤマハ発動機だけでなく日本企業のエンジニアはすごく優秀だと思っている。産業用ロボットでいろんな人をお付き合いしていたから分かる。ほんとに優秀。負ける気がしない。でも結果としてイノベーション起こせていないのは、文化・土壌の問題。そこさえ変えればいけるはず。

 そこで大事なのは、小さくてもいいので、今までやったことのない方法で、1つでいいから成功事例をつくること。日本はフォローする力が強いから後に続く。それが私のミッションで、それができないと私はクビになる(笑)。

個人個人では変わりたいと思っている


 本田 ベンチャー側の視点ではどうでしょうか。谷口さんも苦労された時代もあったと思いますが。

 谷口 以前、大企業が企業内研修とかやると大学の先生呼んでいたんですね。最近、私が呼ばれるんですよ。かなりの回数で。「もっと実践的なものを」と経営者の意識が変わっているんですね。

 講演後の懇談会になると、名だたる企業のエンジニアの人たち100人ぐらいに囲まれて、「何か一緒にやりましょう」とすごいことになる。個人個人では変わりたいと思っている。今変えないと、日本がやばいと。

 最終的に経営者の意思決定が下されると思いますが、このチャンスを生かして欲しい。ベンチャーのアイデアと行動が力を発揮するのはこれからだと思う。私たちに続いて欲しいと思う。


(モデレーターの本田氏=左、日刊工業新聞の藤元氏)

ベンチャーも大企業も関係ない。最後は人


 本田 最後に聴講者の方々に一言お願いします。

 藤元 大手企業は自前主義でイノベーションを起こしていく面もある。自ら組織が変わっていかないといけない。そのためには西城さんのような異能の人に権限を与える。

 谷口さんの会社では外国の人を多く採用されているけど、ダイバーシティーの視点も大事。それとベンチャーの人たちは諦めないで欲しい。ユーグレナの出雲さんがよく話しているが、500社目に伊藤忠と出会って、ミドリムシがここまで成長した例もあるので。

 谷口 ベンチャーも大企業も関係ない。最後は人ですから。コラボしていくことだと思います、製造業もITも。そこに突破するチャンスある。

キュリオシティとオーナシップが最低条件


 西城 2つある。成熟企業から見た時に次ぎに大きな成長をするためには、キュリオシティ(好奇心)とオーナシップです。好奇心は自分にも課している。否定する事は簡単。「黒」を見ることで「白」がよく分かる。よく分からないからこそ、変なこと、面白くないことも一回見てみる。そこに光るものがあるかもしれない。無ければ、無いことが分かったことが価値。そうすれば「白」に集中すればいい。

 そして継続できるかどうかはオーナシップ。自分が社長と思ってやる。自分のお金だと思ってやる。事業会社でもオーナシップを持てる。「予算があるから使えばいいじゃないか」というマインド捨てること。精神論っぽくて嫌いですが、その2つは最低条件です。

快感を味わえるのはやった本人だけ


 十時 まず一番重要なのは「べき論」ではなく、やりたいかやりたくないか。シンプルに考える。やりたくなかったら絶対にやらない方がいい。やりたいという情熱あれば楽しいし、うまくいかなくてもいろんなラーニングが得られる。

 そしてうまくいった時、最後にその快感を味わえるのはやった本人。それが特権です。体験するとやめられるなくからシリアルアントレプレーがいる。

 本田 皆さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今日、自分が小さい頃からお世話になった企業経営者の「お別れの会」に出てきた。40代で独立、現在は石川県内でもトップクラスの収益力のある企業に育てあげた。式次第に故人の語録が記されていた。いくつか紹介したい。「会社は本業で儲けろ」、「経費削減は最終手段である」、「古い商品の技術やノウハウは価値のあるうちに売れ」、「顧客を大事にするのは当然だが、サプライヤーや工事業者も同じように大切にしないといけない」、「販売価格は末端商品の価値をみてつけよ。原価計算の積み上げで決めるな」。学生時代を過ごした神戸高等商船学校航海科(現神戸大学海事科学部)では軍隊予備群として非常に厳しい指導を受けた世代。昭和2年生まれだが、国際感覚を持った正真正銘のアントレプレナーだった。

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