三菱重工と日立、火力統合のシナジーが出始めた矢先のなぜ?
三菱重工が日立に3800億円請求。南アのプロジェクト譲渡価格で意見対立
スピード感持ち変化に対応
再びフィリピン。ルソン島の某大型石炭火力発電所の蒸気タービンのサービス契約をMHPSグループが獲得した。かつては三菱重工が手がけていたのだが、この数年シーメンスに奪われていた。MHPS―PHLを通じて、三菱重工を母体とする長崎工場が強力な技術支援を送り込み、ボイラ、タービンの一括受注獲得に至った。
決め手は「RBM」。膨大なボイラ運転データを基に損傷箇所を予測する旧バブコック日立の“財産”だ。同発電所の運転効率向上を実現し、発電事業者の心をつかんでいた。
サービスに限らず、世界の大型新設プロジェクトでGEやシーメンスに真っ向勝負を挑むなか「足し算以上の受注はできている」と三菱重工エネルギー環境ドメイン長の名山理介も目を細めるが「より合理化され、収益が上がることを期待している」とクギを刺す。
15年10月、MHPSは「蒸気タービン技術本部」と「ガスタービン技術本部」を廃し、「タービン技術本部」を新設した。副本部長兼ガスタービン技術総括部長兼高砂工場地域統括という、要職を務める執行役員の竹原勲は、日立工場(茨城県日立市)で30年弱を過ごし、昨年“三菱の本丸”に異動を命じられた。竹原に当初の気負いはない。三菱重工から受け継ぐ高温燃焼技術を日立系のガスタービンに注入しており「16年早々には形が見える」と自信を示す。
タービン、ボイラ、発電機など火力発電装置フルラインが揃い、人材の融合、開発の統合が進む。GE、シーメンスが脅威であるのは間違いないが、規模だけが勝負ではないことはMHPSの受注状況が証明している。変化への対応力―。そのスピード感が生死を分けることになるだろう。
(敬称略)
<南アの電力会社・エスコムのウグバネ会長(右)とMHPSの西澤社長>
西澤MHPS社長「受注1兆5000億円見えた」
―足元の受注は。
「難しいと思っていた1兆4000億円規模の受注を14年度に達成し、15年度は1兆5000億円規模が見えている。GEによる仏アルストムの事業買収が良い刺激になった」
―シナジー創出と今後の課題は。
「本社は誰がどの出身か分からないくらい混ざり合い、国内工場では責任者を入れ替えた。米国、中国、東南アジアに統括拠点を設け欧州も検討中だ。次の課題は生産統合。うまくいけば2―3年後に利益はついてくる」
―待遇、出張規程など人事制度統合は。
「4月1日に統一する。出張規程や在宅勤務など(三菱重工、日立の)良いとこ取りだ。今年から設立記念日の2月1日を休日にする。区切りで反省することは大切だ」
―タービン技術本部をつくりました。
「関西電力姫路第二発電所で発生したトラブルの対策会議でガスタービンと蒸気タービンの技術者が論争しているのを見て、これはまとめようと。回転機械で根源は同じ。忌憚(きたん)なく意見を言い合うことで会社は強くなる」
―石炭ガス化複合発電(IGCC)に注目が集まります。
「タイやインドネシア、チリ、南アフリカ、ポーランド、モンゴル、トルコなどが興味を示している。福島県に計画する2カ所のIGCC(広野火力発電所、勿来発電所)のどちらかにショールームを作ってもよい」
(聞き手=鈴木真央)
日刊工業新聞2016年5月10日