場中開示、3割超に増加…東証・取引時間延長の効果は?
東証プライム市場に上場するソフト開発のアステリアは11月7日、決算開示時刻を従来の15時から正午に繰り上げた。東京証券取引所が取引終了時間を30分延長し、15時30分としたのに対応するためだ。同日13時30分からの機関投資家向け会見に臨んだ平野洋一郎社長は前倒しについて「一時的な試行錯誤による負担感はある」とした上で「リスクを取ってでも新しいことに挑戦するのが当社の風土。投資家の声を聞きながらより良いIRを目指したい」と話した。
11月5日の取引時間延長後に決算発表した上場会社1657社のうち、取引終了前に決算を発表したのは全体の33・7%に当たる558社。2023年の21%を上回った。それでも15時30分以降(17時29分まで)の発表は66%となお多い。
大和総研の神尾篤史主任研究員は「決算を含め、取締役会の決定事項はすぐ公表し、市場と対話していくのが適時開示の原則からも正しい」と指摘する。日本取引所グループ(JPX)の山道裕己・最高経営責任者(CEO)も会見で「(開示内容は)最も流動性の高いマーケットで株価に織り込ませるのが妥当ではないか」と話した。ただ現状では、今後場中開示が大幅に浸透するかは見通せない。
東京証券取引所にとって今回の延長は大きく二つの目的がある。システム障害発生時、当日中に復旧できる可能性(復元力)の向上、そして投資家の取引機会の拡大だ。復元力に関して市場関係者や参加者に異論はほぼない。
取引機会の拡大についてはさまざまな見方がある。海外の投資家が取引しやすくなる一方、ある大手企業トップは「新少額投資非課税制度(NISA)で投資を始めた現役世代の多くにとり、15時台は勤務時間帯だ。開示内容を確認できない人も多いだろう」とし、「現状は株主平等の原則から大引け後の開示を続ける」とする。
別の課題もある。東証プライム市場の売買代金は11月5日以降、4―6兆円台で推移し、現時点では取引機会の増加が売買の大幅な活性化につながったとは言えない。株式売買を増やすには取引時間の見直しに加え、商品である日本株の魅力も高める必要がある。
5月時点の日本の主要500銘柄で株価純資産倍率(PBR)1倍割れは34%。自社の成長の道筋を市場に示し、事業の収益を高めたり政策保有株の削減を加速したりするなどの姿勢が企業に求められる。