東証、取引時間30分延長…求められる企業のガバナンス改革
CA制度導入、終値の透明性向上
東京証券取引所は現物株の取引時間を70年ぶりに延長する。クロージング・オークション(CA)と呼ぶ株価の終値を確定させる時間帯も併せて設ける。投資家には取引機会が広がり、CA導入で終値の透明性向上も期待できる。一方、売買の活発化など流動性の向上につなげるには、企業のガバナンス改革が欠かせない。上場企業にとっては株主や投資家と目線を合わせる取り組みがこれまで以上に重要になる。(山田邦和)
11月5日から現物株の取引終了時間を30分延ばし、15時30分までとする。取引終了時刻が延びるのは1954年に14時から今の15時に変わって以来。
きっかけは2020年10月に発生した大規模なシステム障害だ。復旧が間に合わず、終日取引停止を余儀なくされた。東証は21年の検討会で、取引時間を延ばせばシステム障害が発生してもその日のうちに復旧・再開できる可能性が高まると説明。市場の利便性を高め、投資家の取引機会を増やす観点からも検討を進め、株式売買システムの更改に合わせ取引時間の延長を決めた。
今後焦点となるのが、東証に株式を上場する企業側の対応だ。決算など適時開示情報はインサイダー取引などのリスクを抑制する観点から、取引時間中でも速やかに開示するのが原則。ただ東証によると現在、約8割の上場企業が主な発表を取引終了後の15時以降に開示している。
開示が15時30分以降にずれるだけでは、決算への反応が東証より流動性の乏しい私設取引所などが先になる状況は変わらない。とはいえ、15時の発表だと「取引終了時までに決算内容を精査できず、決算数値が市場予想より上か下かのみで株価が形成されてしまう可能性もある」(機関投資家)。
取引開始前の朝方や午前中、昼休みの時間帯での情報開示が選択肢になるが、管理部門のリソースが限られている多くの上場企業にとっては実務面から厳しい現状がある。投資家や株主の意見をくみつつ情報開示のタイミングをどう決めるかが上場企業の課題だ。
そもそも取引時間の延長で取引機会が増加することと、取引の活性化に直接の関係はないとの指摘も多い。「店舗の営業時間が延びてもそこに並ぶ商品に魅力がなければ売れないのと同じ。今年に入っての日本株の上昇はコーポレートガバナンス(企業統治)改善期待の高まりが背景にある。引き続き企業改革を進めていくことが流動性向上に欠かせない」と大和総研の神尾篤史主任研究員は指摘する。
株価の終値を確定させるCAも今回新たに導入する。CAは多くの投資家から注文を集めて終値を決めるのが特徴だ。現在の終値は取引終了時刻に取引した投資家が提示した「買いたい値段」と「売りたい値段」を基に決めており、その瞬間に取引した投資家の意見のみが反映されるため、全体が納得する終値ではない可能性もあり得る。
これに対しCAでは注文受付時間(今回は15時25分から15時30分までの5分間)を設け、多くの投資家から買いたい値段と売りたい値段に関する意見を集めた上で、それらを基に終値を決定する。
終値を重視する株価指数に連動したパッシブ型運用の増加で、取引終了間際に売買注文が集まりやすくなっている現状が背景にある。CA導入で多くの投資家が需給動向を把握できるようにし、透明性が高い終値の形成につなげるのが東証の考えだ。
CAへの注目が高まる一方で、場中の流動性に影響が出ないかも注視する必要がありそうだ。