「山の価値」高める…LINEヤフーと田島山業の挑戦が浮き彫りにする日本各地の課題
LINEヤフーは林業を営む田島山業(大分県日田市)から森林整備によって創出された「J―クレジット」を購入する契約を結んだ。田島山業は獲得した資金を森づくりに使う。両社はクレジットの売買だけの関係ではなく、森が持つ多面的な機能を高め、その価値を発信する。IT企業と林業の協業は、日本各地の山が抱える課題解決への挑戦でもある。(編集委員・松木喬)
Jークレジットで森づくり/林業と防災、持続的発展
田島山業は大分県の日田地方で1200ヘクタールの森を所有・管理する。東京ドーム255個分の広さだ。古文書によると、田島家と森との関係は鎌倉時代から続くとされる。
J―クレジットは、温室効果ガス(GHG)の削減実績を国が認証して取引可能にしたもの。樹木が成長中に吸収した二酸化炭素(CO2)量も対象だ。LINEヤフーは田島山業からCO2年1500トン分のJ―クレジットを10年間購入し、自社の排出量から差し引く。
両社の出会いは、田島山業の田島大輔取締役が大学生の頃にさかのぼる。参加した勉強会でヤフー(当時)の社員と知り合った。2016年に田島取締役が家業の田島山業に入社してからも交流が続き、J―クレジットの話をしたところ契約に発展した。
同社がJ―クレジットを創出した契機が、20年7月の豪雨だ。山に整備した30キロメートルの道が土砂災害に遭い、復旧に3年かかった。その間、木材を販売できなかった。田島取締役は「林業の収入と自然災害の発生頻度から、事業の継続性を考えるようになった」と当時の心境を思い出す。そして木材販売以外の森の価値を見つめ直すうち、J―クレジットに関心を持った。森林整備によるCO2吸収量の増加は、本業と親和性がある。また、手入れがされた健全な山ほど災害リスクを減らせる。
LINEヤフーESG推進室の小南晃雅氏は「購入するだけでなく、取り組みを一緒に作り、世の中に発信できるJ―クレジットを探していた。方向感が合った」と契約の経緯を語る。同社は11年の東日本大震災をきっかけの一つに災害対応や被災地支援に貢献してきた。CO2を吸収しながら、災害に強い山や森を作る田島山業の思いに共感した。
田島取締役もCO2吸収や防災、生物多様性の保全など、山の多面的な機能をどう表現したらよいのか考えていた。「LINEヤフーと森の価値について話せる関係性がありがたい」(同)と話す。
植林で生物多様性/機能や利点探り山の課題解決へ
9月にはLINEヤフーの社員25人が田島山業の山で植林した。地面は簡単には掘れず、苗木が真っすぐ立たないなど、植林の難しさを体感し「サステナビリティーの実現が難しいという気付きになった」(小南氏)という。また、鳥やチョウが好む樹種を選んで植えた。木材に適した木ばかりでは、生物多様性が豊かな森にはならないからだ。「事業と両立させながら豊かな森を作るとはどういう形なのか、一緒に模索を始めた」(同)と語る。
田島取締役によると、防災に適した樹種や栽培方法は定まっていないという。「杉やヒノキを育てながら、別の樹木を育てて多面的な機能を持つ森を作りたい。杉やヒノキ以外でも価値があって経済的リターンがあると証明されると、全国の山が変わるはず」と言葉に力を込める。
また9月の植林では、スタートアップのバイオーム(京都市下京区)が開発したスマートフォンアプリを使って生き物調査もした。このアプリは昆虫や植物を撮影すると種類が分かる。1時間の調査で160種を発見できた。「多様な生物が生息することも積極的に発信したい」(田島取締役)と語る。
日本各地で森が荒廃し、土砂災害が起きている。森林によるCO2吸収量も減少傾向だ。地域だけでは森の再生は難しく、大企業との連携は大きな援軍となりそうだ。LINEヤフーと田島山業の取り組みによって、多くの大企業が支援したくなる山の価値が発信されるのかが注目だ。