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Jリーグ・アルビレックス新潟の試合満席に…地元学生がアイデア競う、コンテストで得た成果

Jリーグ・アルビレックス新潟の試合満席に…地元学生がアイデア競う、コンテストで得た成果

優秀賞に輝いた小菅さん㊧と大野さん

課題解決「企業×スポーツクラブ」

Hakuhodo DY ONE(HDY ONE、東京都渋谷区、小坂洋人社長)は、大学生がマーケティングプランを競うコンテストをサッカー・Jリーグのアルビレックス新潟とともに開催した。人材採用やサッカーファン獲得以外に、地域の学生に挑戦の機会をつくる狙いもあった。結果的に学生も自信を持つことができた。企業とスポーツクラブが連携し、課題解決を目指した事例だ。(編集委員・松木喬)

Hakuhodo DY ONEはデジタルマーケティング事業を展開する。コンテストの名称は「フルスワンカップ」。新潟市内のスタジアム「デンカビッグスワン」で開催するアルビレックス新潟の試合を満席にするプランを競った。

9月5日、最終審査があり、小菅ひかりさんと大野珠美さん(ともに新潟大学)のチームが優秀賞に選ばれた。2人はスタジアムでカップルがデートをするプランを発表した。マッチングアプリで出会ったとしても地元にデートスポットが少ない課題があり、観戦と結びつけて解決する。アルビレックス関係者は「訪れた2人がいずれ結婚して子どもが誕生し、親子で観戦に来る」と、ストーリーが思い浮かんだという。

HDY ONEは2019年、新潟オフィスを開設した。採用活動のために県内の学生に会社を知ってもらおうと、新潟大学の現役学生が起業した「ビーゼア」に相談した。採用コンサルティングの同社を通じて調べるとHDY ONEが「チャレンジできる環境」を訴求しても学生は興味を抱けていないと判明。意見交換を続け、コンテスト実施のアイデアが生まれた。そして、地元のアルビレックスを題材にすることで、参加ハードルを下げられると見込んだ。HDY ONEの竹林知里さんは「新潟の学生が、地元でチャンレンジする体験ができる」と可能性を感じた。

新潟大でマーケティング手法の授業を開講し、受講生が応募する流れをつくった(9月の最終審査)

アルビレックスにも課題があった。毎試合2万人以上が来場しており、首都圏のクラブに匹敵する動員力がある。とはいえ、4万人を収容できるスタジアムが満席になることは少ない。また、Jリーグ全体に共通する若年層のファン獲得も課題だった。

23年に初開催したコンテストには県外からも含め18チームが応募。HDY ONEへの入社希望者も現れた。また、プランを考えるために試合を観戦した学生がアルビレックスのファンになるなど、各社の課題解決に向けた手応えがあった。

24年は新潟大学でマーケティング手法の授業を開講し、受講生が応募する流れをつくった。17チームが応募し、プランの質が一段と高まった。

2位の審査員特別賞には、吉野夢叶さんと百武優一さん(ともに新潟大学)のチームを選出した。2人とも起業しており、学生をしながら会社を経営している。立体的な映像が浮き上がるデジタルチケットのプランを提案した。

参加者には経済系以外に、工学部や医学部の学生もいた。HDY ONEが採用活動で接点を持てていなかった学部だった。竹林さんは「学生もマーケティングに興味があり、一押しすると一歩を踏み出せる。挑戦した経験は社会に出た時に役立つ」と成果を確信する。

コンテストに参加した学生たち

一方、学生も自信を深めたようだ。大野さんは「先輩がデートスポットが少ないと言ったので自分でも調べると、魅力的な場所を見つけられず、課題として認識した」とプランを練った。小菅さんは「コンテストに初出場だったので不安が大きかった。私たちの今後の自信につながり、本当に良かった」と喜ぶ。

学生起業家として挑んだ吉野さんは「受賞しようと日々努力してきたのでうれしい」と語り、百武さんも「素直に受賞がうれしい半面、優勝を逃した悔しさがある」と感想を語った。2人とも「アルビレックス新潟のパートナー企業を目指したい」と夢を語る。

HDY ONEはアルビレックスに協賛するパートナー企業でもある。14日は「スポーツの日」。他の地域の企業も、地元スポーツクラブと連携した課題解決や地域貢献を考えてみる日にしたい。

日刊工業新聞 2024年10月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
学生起業家の存在に驚きました。同じ新潟県民として「学生が起業する地域だったのか」と、隔世の感でした。他県と比べ起業が少ないのが課題と聞いています。挑戦する学生、そしてアルビも応援したいです。ルヴァン杯決勝に初めて進出しました。11・2国立でも凱歌を聞きたいです。

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