ニュースイッチ

学術会議、生まれ変わりは3年後…有識者懇がまとめた報告書の全容

学術会議、生まれ変わりは3年後…有識者懇がまとめた報告書の全容

会見に答える岸座長(18日、内閣府庁舎)

内閣府の日本学術会議の在り方を検討する有識者懇談会は、新しく設立する新法人の会員をあらためて選考し直し、この“特別な選考”を通過しない者は発足3年後の次期会員選考には参加させないという報告書をまとめた。3年後には現会員が去り、学術会議の生まれ変わりが完了する。政府は報告書をもとに法案などを用意する。学術会議は「政府による介入と言わざるを得ない」と説明してきた。22日に臨時総会を開いて対応を決める。(小寺貴之)

「与党の中の厳しい雰囲気は半端じゃない。いまでこそ少数与党でもっているものの、3年後に与党が強くなったときに、とてもじゃないけど、いまの日学なんて持たない」。内閣府大臣官房総合政策推進室の担当官は説明する。「日本にどれだけ貢献しているか分からない状態がずっと続いてきた。少数派が反対するがために改革できない。これを繰り返してきたからではないのか」と続ける。内閣府も学術会議も強いプレッシャーの下で議論を続けてきた。

焦点の一つは新生学術会議発足時の現会員の扱いだ。任期の残る現会員が新生学術会議にスライドする案と、改めて“特別な選考”を受けさせる案が検討され、一度はスライド案で固まった。だが報告書ではスライド案と再選考案の二つを併記した上で、3年後の選考は“特別な選考”を通過した新会員が行うべきとした。3年後に新生学術会議の生まれ変わりが完了する。

これらは最後まで内閣府と学術会議が折衝していた点だ。特別な選考の選考委員会を学術会議に置くか、内閣府に置くかでもめ、懇談会では内閣府に置くことでまとまった。ただ報告書には記載されなかった。内閣府の担当官は「学術会議が賛成せず盛り込めなかった」と明かす。特別な選考の主体が誰になるか流動している。

もともと“特別な選考”は発足時の現会員の扱いが主題だった。学術会議は特別な選考自体を「合理的な理由がなく不要」と反対し、内閣府側は新生学術会議ではミッションが拡大し深化するため、選考のやり直しが必要と主張した。有識者の中でも意見が割れ、内閣総理大臣から任命された任期はまっとうすべきという意見が大きくなった。

ここで内閣府側から3年後の会員選考には現会員を不参加とすることが明示された。ある有識者は「新しい組織を立ち上げるときには大変なエネルギーを必要とするため、さらに難しい問題を持ち込まないほうがいいという考え方はあるかもしれない」と容認した。

ただ現会員が新しい選考基準とプロセスで新しい会員を選ぶことがふさわしくない根拠が示されていない。現会員は日本のトップ研究者だ。人脈も実績も他分野の業績を見る目もある。内閣府担当官は「一人ひとりの能力や資質は関係ない。新しい組織を作るということ」と説明する。梶田隆章学術会議前会長は「世界のアカデミーの常識として、会員選考に政府が関与することはあり得ない」と強調する。

学術会議は「特別な選考は到底受け入れられない」と説明してきた。執行部は執行部が会員を先導することにならないよう、淡々と情報共有を進めている。内閣府はまずは学術会議の反応を見極める。学術会議は22日の臨時総会で会員から意見を集める。政府としてのアクションはこれを受けてからになる。

これは学術会議改革のマイルストーンの一つといえる。報告書では海外アカデミーのような公益法人を理想形態とし、新法人をその出発点と位置付ける。懇談会の岸輝雄座長は「政府も学術会議も言うことは言って、有力なアカデミーになっていってほしい」と期待する。

日刊工業新聞 2024年12月19日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
学術会議側の先生によると、学術会議が反対意見をいうと、これでは自民党が黙っていません、という言葉を持ち出し、有識者のレクでは、これが決まった方針で、これで行きます、という説明なのだそうです。これは立証も反証も難しいです。記者対応の担当官は極めて難しい状況・問題なのにとても丁寧に対応してくれています。問題は、内閣府が1人で2役、3役を果たすことで、事を進めているように見えてしまうことです。予防は可能です。学術会議と与党など、関係者が直接話し合うことです。仲介者が嘘を言うとしても直接すり合わせれば検出できるはずです。また行政府が特定与党とのみ話すのでなくて、野党にも途中経過を報告して与野党ですり合わせる道もあります。本来そうあるべきと思いつつ、問題が難しいのと政治・社会的関心が薄いため、現実解ではないかもしれません。ただ国家資本主義は科技イノベ政策にも及んでいて、政治問題に振り回されないような仕組みが必要です。こんな時代だからこそ学問の自由を再定義したらいいのではないかと思います。普通の科技政策官にとっても、変な目で見られない、変に勘ぐられないための予防策になるかもしれません。強烈な事例ができたので大学ガバナンス系の政策は相当難しくなるだろうと思います。

編集部のおすすめ