学術会議、生まれ変わりは3年後…有識者懇がまとめた報告書の全容
内閣府の日本学術会議の在り方を検討する有識者懇談会は、新しく設立する新法人の会員をあらためて選考し直し、この“特別な選考”を通過しない者は発足3年後の次期会員選考には参加させないという報告書をまとめた。3年後には現会員が去り、学術会議の生まれ変わりが完了する。政府は報告書をもとに法案などを用意する。学術会議は「政府による介入と言わざるを得ない」と説明してきた。22日に臨時総会を開いて対応を決める。(小寺貴之)
「与党の中の厳しい雰囲気は半端じゃない。いまでこそ少数与党でもっているものの、3年後に与党が強くなったときに、とてもじゃないけど、いまの日学なんて持たない」。内閣府大臣官房総合政策推進室の担当官は説明する。「日本にどれだけ貢献しているか分からない状態がずっと続いてきた。少数派が反対するがために改革できない。これを繰り返してきたからではないのか」と続ける。内閣府も学術会議も強いプレッシャーの下で議論を続けてきた。
焦点の一つは新生学術会議発足時の現会員の扱いだ。任期の残る現会員が新生学術会議にスライドする案と、改めて“特別な選考”を受けさせる案が検討され、一度はスライド案で固まった。だが報告書ではスライド案と再選考案の二つを併記した上で、3年後の選考は“特別な選考”を通過した新会員が行うべきとした。3年後に新生学術会議の生まれ変わりが完了する。
これらは最後まで内閣府と学術会議が折衝していた点だ。特別な選考の選考委員会を学術会議に置くか、内閣府に置くかでもめ、懇談会では内閣府に置くことでまとまった。ただ報告書には記載されなかった。内閣府の担当官は「学術会議が賛成せず盛り込めなかった」と明かす。特別な選考の主体が誰になるか流動している。
もともと“特別な選考”は発足時の現会員の扱いが主題だった。学術会議は特別な選考自体を「合理的な理由がなく不要」と反対し、内閣府側は新生学術会議ではミッションが拡大し深化するため、選考のやり直しが必要と主張した。有識者の中でも意見が割れ、内閣総理大臣から任命された任期はまっとうすべきという意見が大きくなった。
ここで内閣府側から3年後の会員選考には現会員を不参加とすることが明示された。ある有識者は「新しい組織を立ち上げるときには大変なエネルギーを必要とするため、さらに難しい問題を持ち込まないほうがいいという考え方はあるかもしれない」と容認した。
ただ現会員が新しい選考基準とプロセスで新しい会員を選ぶことがふさわしくない根拠が示されていない。現会員は日本のトップ研究者だ。人脈も実績も他分野の業績を見る目もある。内閣府担当官は「一人ひとりの能力や資質は関係ない。新しい組織を作るということ」と説明する。梶田隆章学術会議前会長は「世界のアカデミーの常識として、会員選考に政府が関与することはあり得ない」と強調する。
学術会議は「特別な選考は到底受け入れられない」と説明してきた。執行部は執行部が会員を先導することにならないよう、淡々と情報共有を進めている。内閣府はまずは学術会議の反応を見極める。学術会議は22日の臨時総会で会員から意見を集める。政府としてのアクションはこれを受けてからになる。
これは学術会議改革のマイルストーンの一つといえる。報告書では海外アカデミーのような公益法人を理想形態とし、新法人をその出発点と位置付ける。懇談会の岸輝雄座長は「政府も学術会議も言うことは言って、有力なアカデミーになっていってほしい」と期待する。