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学術会議「経営と執行」の分離案浮上…「あれは当て馬」

学術会議「経営と執行」の分離案浮上…「あれは当て馬」

学術会議総会後の会見に臨む光石会長(右から2人目)ら/撮影小寺

内閣府の提案取り合わず

日本学術会議の在り方を巡り、経営と執行を分離させる案が浮上している。公的な要素を持ちながら私立大学として運営されている沖縄科学技術大学院大学(OIST)のように会長の上に理事会を設置して外部者で過半数を押さえる。国立大学のガバナンス強化の流れと軌を一にする案といえる。この内閣府の提案に対して学術会議は取り合わない姿勢をとる。科学者の代表機関は代表たり得るのか。(小寺貴之)

「あれは当て馬」―。学術会議の日比谷潤子副会長は内閣府案を一蹴する。OISTモデルは内閣府の総合政策推進室が「公益法人+α」案として有識者懇談会作業部会に提示した。学術会議の必要経費の2分の1以上を国が補助する場合の組織形態とされている。OISTを参考に、事業計画と監事は主務大臣認可とし、理事会を置いて新法人の長と理事長を分離する。

OISTでは学長は理事会の構成員だが理事長を兼ねている。「法人の長と理事長を分離」と明記した分、より踏み込んだ措置といえる。学術会議の会員は科学者の代表として選ばれるが、運営管理は理事会が行うことになる。学術会議の光石衛会長は「(会員は)さすがに受け入れないだろう」とこぼす。

内閣府から出向する学術会議事務局も「内閣府が通したい案は別にある」と解説する。2023年末に提示した政府案を学術会議に認めさせるための“当て馬”と認識された。

内閣府は「国からの予算比率が大きくなればガバナンス強化は必要だ」と説明する。ガバナンスの自由度と予算はトレードオフにあるという。学術会議の総会では法人化の条件闘争に終始せず、よりよい役割発揮に向けて基本方針を貫くことが確認された。

改めてガバナンス強化が求められる理由は「現在の予算ではアカデミーとしての役割を果たすには不十分。予算を増やすにはガバナンスが必要」(五十嵐仁一作業部会主査)という論理だ。ただ有識者懇から再三の予算増の要請はあるものの、内閣府は「必要な財政的支援は行う」という姿勢を堅持する。

23年8月に有識者懇が設置されてから1年以上経つが、堂々巡りが続く。業を煮やして代表性さえ揺らぎかねない案が出てきている。アカデミーとしての機能を高めるための議論が望まれる。

日刊工業新聞 2024年10月30日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
総合政策推進室の案には政府案をベースとした「特別な法人」という案と「公益法人+α」、「公益法人+β」が提示されています。α案がOIST、β案が私学をモデルとしていて有識者懇談会作業部会の委員はどちらもお薦めできないと言います。総合政策推進室もα案もβ案も推奨している訳ではないと念押ししています。推奨は政府案をベースとした「特別な法人」であり、それを選んでもらうためのα案とβ案である。総合政策推進室がそう説明していると明記すると差し障りがあるんじゃないかと思いつつ、改めてそう念押しされたので明記した方がよかったのかと反省しました。当て馬という認識は内閣府と日学で一致しています。推奨しない案を交渉カードのように提示して有識者に議論させるのはどうなのか。議論の俎上に載せるなら経営と執行の分離などの反発を招く仕組みを組み込んでおくのはどうなのか。もう一度、アカデミーとしての機能強化から議論を組み立てた方がいいように思います。日学は機能強化につながるなら法人化を否定しないと繰り返し言っていて、消極的な表現ですが、機能や体制が強化できるなら法人化を認める意向はあります。現行のガバナンスで身動き取れずに悩んでいるのは日学の執行部も同じなので、機能強化の文脈でガバナンス改革案を説明できれば歩み寄れるのではないかと思います。どこぞの教育系官庁は大学の経営企画部長などのポストに職員を出向させて経営改革案を作らせたりしています。日学事務局の50人は全員内閣府の人間なので、経営企画のポストを押さえなくても同じことができてしまいます。これは大臣任命の監事を置いたり、中期計画に意見する評価委員会を設置するよりも、よっぽど強力なガバナンスメカニズムとして機能するはずでした。いま機能していないなら形だけの監事を置いても意味があるのかと思います。こう問うと、意味も不都合もないんだから置いて予算を増やそうよという声さえあります。そう社会に説明できるのか。この1年は平行線を再確認する1年だったと思います。

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