SiCパワー半導体の生産体制を強化する。デンソー・富士電機は海外大手に対応できるか
デンソーと富士電機がパワー半導体事業で協業する。両社は2116億円を投じ、車載向けなどに需要の拡大が見込まれる炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の国内での生産体制を強化する。経済産業省も最大で705億円を補助する。両社の開発力と生産技術を合わせることで安定的な供給体制を構築するとともに、シェアの高い独インフィニオン・テクノロジーズやスイスのSTマイクロエレクトロニクスといった海外大手に対抗していく。
投資計画では、デンソーの大安製作所(三重県いなべ市)でSiCウエハー、幸田製作所(愛知県幸田町)でウエハー上にエピタキシャル層を形成したSiCエピウエハーをそれぞれ生産。富士電機の半導体製造の拠点である松本工場(長野県松本市)でSiCパワー半導体を2027年5月から量産する。
デンソーはこれまでウエハーからインバーターまでSiC技術を総合的に開発してきた。富士電機の生産技術と融合することで、安定的かつ効率的なSiCパワー半導体の生産体制の構築を目指す。
既存のシリコン(Si)パワー半導体よりも性能の高いSiCパワー半導体は、車載や産業用途などで世界的に需要が高まると見込まれる。一方で多額の投資が必要なことから、海外大手よりも事業規模の小さい日本企業にとって負担になっていた。
経産省、9社に1017億円補助 生産拠点集約、欧米並みに
経済産業省は炭化ケイ素(SiC)パワー半導体や半導体部素材、電子部品などの生産能力増強を計画する9社に最大1017億円を補助する。半導体サプライチェーン(供給網)における幅広い重要物資の国内生産を支援し、供給網全体の強靱(きょうじん)化を図る。
パワー半導体への大規模な支援は、2023年12月の東芝とロームの協業に続く2例目。電気自動車(EV)の普及などで需要が高まるパワー半導体は複数の日本企業が一定のシェアを握るものの、新興国メーカーが競争力を高めていく可能性も指摘されている。
経産省はSiCを中心とするパワー半導体生産強化への補助金に「原則、事業規模2000億円以上」という交付条件を設定。複数社の連携を促してきた。武藤容治経産相は「生産拠点の集約で、シェア上位の欧米企業並みの供給能力確保を目指す」と支援の意義を強調した。
また、経済安全保障推進法に基づく先端電子部品への支援の第1号案件として、村田製作所などが手がけるバルク弾性波(BAW)フィルターの増産投資を支援する。
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