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「習うより慣れろ」…AIクローンを用いた新しい働き方はどう進展するか

「習うより慣れろ」…AIクローンを用いた新しい働き方はどう進展するか

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オルツは10月に東京証券取引所に新規上場し、新たなスタートを切った。強みは人の意思パターンや知識を学習する人工知能(AI)クローン(分身)技術。これをクラウド上に配置し、各クローンの持ち主が担う作業の一部を代替させ、業務効率化や生産性向上を図る。人手不足が深刻化する中、AIクローンを用いた新しい働き方はどう進展するのか。キーワードは「習うより慣れろ」だ。(編集委員・斉藤実)

「米倉千貴社長を含め当社では全社員約100人がそれぞれ自身のクローンを持ち、日々の仕事に活用している」。AI・デジタル変革(DX)のコンサルタントを務める小村淳己パートナー兼プリンシパルは社内実践についてこう語る。

既に全社の情報共有ツール「スラック」内では100人分のクローンが動き、社内外の問い合わせやプレゼンテーションの代行、1次面接の対応などの業務をこなしている。

使い方は一見すると、通常のAIチャットボットと似ているが、「我々のAIは個性を持ち、個人に寄り添うAIだ」と小村氏は他との違いを強調する。「米巨大IT企業のGAFAMが提供するAIは万能型」(小村氏)であり、誰が質問しても回答は同じだが「当社の場合、クローンが複数あれば同じ質問でも全部が異なる回答を返す」(同)。

本人がいなくてもクローンに任せれば、問い合わせなどに24時間応対することが可能。本人は空いた時間を本来の業務に集中できるため、生産性が向上する。社内実践では「社員の労働時間を上回る生産量を上げている」(同)という。

AIクローンはプログラミングの専門知識がなくても扱え、各自がそれぞれ使いながら好きに育てられる。さらにクローンがスラック内での本人の会話や、作成したコンテンツなどからも学ぶため、日々自動でアップデートされる。

クローンが誰かに利用されるたびに、対価を本人に還元するというユニークな制度もあり、「クローンの成長を促す動機付けとなっている」(同)。

クローンは生成AI技術がベースであり、使い方にはコツがある。特定の企業名や個人名が出ないようにするなど、安全性の確保は重要。小村氏は生成AIがそうであるように「返答の正解率は7―8割とみなしているが、信頼度は(生身の)人間とそう変わらない」と実感を語る。

オルツは「日本が抱える高齢化社会の労働不足をAIクローンで解決する」という壮大な構想を持つ。挑戦は始まったばかりだ。


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日刊工業新聞 2024年11月27日

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