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NIPPON EXPRESSホールディングスが倉庫シェアスタートアップと挑む「物流の2024年問題」の解決策

NIPPON EXPRESSホールディングス(NX)が、スタートアップとの共創を加速している。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを立ち上げ、DXや環境・サステナブル領域のサービスを手がけるスタートアップを中心に出資している。倉庫のシェアリング事業のsouco(東京都千代田区)への出資はその第一号案件だ。多数の物流企業などが保有する全国の倉庫とその空き情報をデータベース(DB)化し、荷主の多様な保管需要とマッチングする。NXでスタートアップとの共創を推進するグローバル事業本部の青浩司コーポレートベンチャリング部長と、soucoの中原久根人代表取締役に出資の経緯や共創の現状、今後の展望を聞いた。

―NXとsoucoは出資以前から取引があったそうですね。
 青氏 ある大型案件を受託するため、すぐ利用できるスペースが必要になった際、soucoのサービスを知り、連絡したのがきっかけでした。一般論ですが倉庫は需要と供給のバランスを調整する機能があります。例えば、保管機能を倉庫側に移して、ジャストインタイムで届けるための調整役にもなります。しかし、コロナ禍ではサプライチェーンが目詰まりを起こし、日本中の倉庫で荷物があふれ出しました。その時期に大型案件の依頼を受け、社有の倉庫で新規の荷物を保管できる体制を整える必要が生まれました。そこで、既にお預かりしていた荷物を外に逃がすスペースを探す中で、soucoを見つけ、利用しました。その案件以降はsoucoに荷物を預かってもらったり、我々が依頼を受けたりと取引を続けていました。

NIPPON EXPRESSホールディングスグローバル事業本部コーポレートベンチャリング部長の青浩司氏

―今回の出資に向けた話し合いは、soucoがNXに問い合わせて始まったと聞きました。すでに取引がある中で、なぜ問い合わせたのでしょうか。
 中原氏 より包括的な取り組みにつなげられる可能性を感じたからです。我々は倉庫と荷主をマッチングするプラットフォーム(PF)を展開する中で、たくさんの倉庫情報が登録されている状態を作りたい思いがあり、倉庫を多く持つ企業と連携する取り組みを進めてきました。その中で、NXは日本で最も倉庫を持つ物流会社だと考えていました。(CVCを通して)連携でき、NXの倉庫が我々のPFに加わることで、倉庫の情報量などで他社の追随を許さない日本一のサービスを構築できると考えていました。

―面談した際の印象を覚えていますか。
 中原氏 よく覚えています。我々の倉庫情報のDBを評価いただき、嬉しかったですね。NXは社内の倉庫情報の整理について課題を持っており、いずれ我々のDBと連携したいという話も伺いました。そうなれば、私の期待と非常に合致するだろうと思いました。

soucoの中原久根人代表取締役

-NXは自社の倉庫情報にどのような課題をお持ちだったのですか。
 青氏 当社ではDBが組織ごとに複数存在しています。さらに、それぞれ管理している情報が異なっています。このため、営業担当は顧客の要望に応えるためには、倉庫現場に直接問い合わせなくてはいけません。そのため、DBを統一しつつ、情報項目を揃えたいと考えていました。その点、soucoのDBには一覧性があり、顧客の要望に合うかを検索しやすいツールになっています。(面談の際には)直観的に、我々に足りないモノを持っていると感じました。

-soucoのツールのよさが出資を決断する決め手になったと。
 青氏 倉庫会社と荷主がオンラインで契約する際に必要なツールなどが一通り整理されていた点も魅力に感じました。倉庫は預かる荷物の規模や期間が異なっていても、契約プロセスは大きく変わりません。当社は基本的には相対で条件を設定して契約しており、作業効率や営業効率を考えると、どうしても100坪を超える中・大規模のスペースが必要な荷物が事業領域になります。小規模や短期間の案件を受託する難しさがあり、そうした案件を獲得するための検討も必要と考えていました。

その中で、soucoのように倉庫情報が一元管理されたDBと、標準化されている契約書や利用規約があると、当社が機会損失していた比較的、少量短期の保管案件を含めてスピード感のある手続きが可能になるだろうと感じました。

―中原さんご自身はsoucoのサービスの特徴や強みをどのように考えていますか。
 中原氏 我々のDBは全国2500拠点以上の倉庫情報を網羅しており、住所や面積、空き情報などを精緻に把握しています。細かい項目を含めると、約140項目の情報を整理しています。そのDBからエリアや必要な面積、利用期間などの顧客の希望条件に合わせてマッチングしています。段ボール1箱1日10円から利用できます。倉庫が必要な顧客は従来、自分で情報を収集して大きな倉庫を建設したり、1年単位で契約したり、トランクルームを借りたりする必要がありました。これでは過剰に広いスペースや必要のない期間を借りる必要があり、コストの無駄が発生します。我々のサービスは倉庫会社や利用者にとって無駄や無理がなくシェアリングしています。

また、全国どの倉庫にどれだけ荷物を預けても統一した価格で利用できます。倉庫シェアリングはいくつかの企業が多様なアプローチで取り組んでいますが、統一価格などを含めたサービスの使いやすさは我々の強みだと思います。

―倉庫の利用価格は立地条件などによって変わりそうです。その統一について倉庫会社から反発はなかったのでしょうか。
 中原氏 賛否はありました。ただ、利用者の立場で考えると価格がいろいろあったり、個別見積もりを取ったりすると利用するまでのプロセスが複雑化して選べなくなってしまいます。例えば、ペットボトル飲料は全国のコンビニで価格は基本的に同じです。物流コストを考えると地方の方が高価でもおかしくありませんが、同じ価格だから迷わずに買えます。それを倉庫シェアリングでも実現しなければ、流動性が低くなると思い、意志を持って統一しました。倉庫会社も小規模の案件で契約プロセスが複雑になることは望みません。また、倉庫の中で今は価値を生み出していない空きスペースに我々が顧客を付けるため、倉庫会社としては追加で収益を上げられる仕組みです。その上で、いろいろな単価情報を見極めながら設定した結果、納得してもらえる統一価格になりました。

-一倉庫会社のお立場としてNXは統一価格をどう評価されますか。
 青氏 当社も東京と千葉と神奈川で倉庫の坪単価がそれぞれあります。ただ、利用者目線で考えれば、わかりやすさが一番よいはずです。それこそ小口案件での統一価格は我々が(必要とは思いつつ)これまで対応できなかったことです。

-両社の共創の現状を教えて下さい。
 青氏 すでに日本通運のホームページの3カ所にバナーを用意し、soucoのランディングページ(LP)に送客しています。soucoからも案件の紹介をもらっており、お互いの売り上げにつながっています。今後はまず、全国に数千ある当社の倉庫の中からsoucoのビジネスに合う拠点をsoucoのPFに掲載します。そうして我々の営業担当がリーチできていない新しい需要をsoucoのノウハウなどを生かして掴みたいと考えています。具体的には、店舗の建て替え時の仮置きや販促品の保管といったバックヤードの需要などを見込んでいます。

-中長期の展望はいかがですか。
 青氏 社内の倉庫DBを統一していきます。現状はそれぞれの組織が使いやすい仕組みになっており、それらの最大公約数になるようなアプローチで構築できればと思っています。ゆくゆくは倉庫の利用希望者が直接アクセスできる環境を作り、デジタルオーダーを受けられるようにしたいと考えています。倉庫事業のDX化を目指します。

-soucoが開発した、発着地と荷物量を加味して輸送の最適な中継拠点になる倉庫をsoucoのDBから算出するシステム「Optis」の活用も検討されているそうですね。
 青氏 我々は(トラックドライバーの労働時間に上限が課され、輸送能力が不足する)「物流の2024年問題」という大きな課題を抱えています。ドライバーが運転できる距離が短くなるため、どこかで中継したいという需要を営業担当が顧客から伺うことがあるようです。Optisを活用して、この需要に対応するソリューションを開発したいと考えています。

中原氏 我々としてもOptisを通して、輸送にインパクトのある倉庫の使い方がなされればという思いがあります。我々はこれまで実運送に関わる営業活動をしていません。その中で、Optisを実運送で利用するために必要な情報をNXにフィードバックしてもらっており、今後のプロダクト開発に生かせると考えています。

-改めてNXの出資を受けてのsoucoの今後の展望を教えて下さい。
 中原氏 日本トップの物流業務を展開しているNXとの提携により、我々の倉庫DBやサービス提供力は格段に向上できます。我々の得意領域である「段ボール1箱から数百坪規模までの倉庫サービス」とNXの得意な「数千坪単位、専門的な物流サービス」の2つの領域で相互に協力しながら営業したいと考えています。一方、我々の強みである全国の倉庫会社による倉庫ネットワークを、NXにも活用してもらい、サプライチェーンを川上から川下まで相互に補完することで、日本のフィジカルインターネットの基盤を作っていきたいです。

「NXグローバルイノベーションファンド」専用ウェブサイト
 URL: https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/cvc/

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