「特化型モデル」開発、農研機構が推進する「生成AI」の社会実装法
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が農業特化型生成人工知能(AI)の社会実装を進めている。農作物の品種や地域ごとにデータを学習させ、栽培温度や条件などの具体的な助言が可能になった。まずは農業普及指導員をAIで支援して調査や準備に費やす時間の3割減を目指す。生成AIはハルシネーション(誤情報生成)の問題が付きまとう。AIを適切に使いながらAIを育てるコミュニティー作りが始まっている。
「まだ誤情報が含まれる。農家さんに直接提供するのは無責任だと判断した」と農研機構農業情報研究センターの川村隆浩副センター長は開発した生成AIについて慎重な姿勢を崩さない。農研機構が開発したAIモデルは米国の大規模言語モデル(LLM)と比べて正答率が4割高い。他のLLMが暑い・寒いなどの曖昧な助言にとどまるのに対して、農研機構のAIモデルは温度や湿度などの具体的な数値を挙げて助言する。数値管理や意思決定に利用できる。
それでも誤情報はゼロにならない。そこで誤情報を判断できる普及指導員の支援ツールとして実用化した。三重県でイチゴ栽培指導の支援ツールとして実証事業を始めた。川村副センター長は「都道府県が力を入れている作目ごとに特化型モデルを作り支援していく」と説明する。全ての都道府県と話を進める予定だ。特化型モデルを用意すると他県に栽培ノウハウが漏れず競争を阻害しない。
生成AIのハルシネーションを防ぐ技術はまだ確立されていない。そのため誤情報を正しながらAIを使い育てるコミュニティー作りが重要になっている。誤情報だけでなく、温暖化や農法の変化に合わせてAIに学ばせるデータを更新していく必要がある。
これは普及指導活動と重なる。普及指導員を核に地域でAIを育てるコミュニティーができれば、地域発のAIとして知見を集めて更新していける。地域AIが新米農家を支えたり、新しい品種や農法への挑戦を後押ししたりできる。三重県では指導員へのAI支援から始め、問い合わせ頻度の多い簡単な質問からAIが直接農家を支援していく計画だ。課題は都道府県のコミットが必要な点だ。農研機構がAIを開発したら終わりでなく、地域でAIとコミュニティーを育てる必要がある。農研機構の久間和生理事長は「生成AI自体がスマート農業を広げる手段になる」と説明する。地域の農業振興戦略を実現する機会にできるか注目される。