導入3.9倍…「地中熱ヒートポンプ」拡大へ、利用促進協がまとめた工程表の全容
外気に比べ冬は暖かく、夏は冷たい地下の温度(地中熱)を活用して空調を省エネルギー化する機運が高まりそうだ。設計や設備メーカーなど145社が参加するNPO法人の地中熱利用促進協会が、2050年に向けたロードマップ(工程表)を公表した。知名度向上や用途拡大によって、50年度に21年度比3・9倍の導入を目指す。国内の地中熱市場が拡大すれば日本のヒートポンプメーカーの商機にもつながる。(編集委員・松木喬)
東京都の「地中熱ポテンシャルマップ」によると、都内の地下10メートルの温度は17度Cに保たれている。地上と地下を循環する液体に17度Cの熱を伝えて汲(く)み上げ、冷暖房に利用するのが地中熱ヒートポンプ(HP)だ。
冬の外気温が10度Cとした場合、HPで室温を20度Cにするには10度C分を上昇させるエネルギーが必要だ。17度Cの地中熱からだと3度Cの昇温で済み、エネルギーを大幅に削減できる。夏は地中熱が外気よりも冷たいため、冷房を省エネ化できる。地中熱HPを採用した施設として知られる東京スカイツリー(東京都墨田区)は、エネルギー消費量を48%削減した。
環境省によると21年度までの国内の地中熱HPの累計導入は3218件、容量にすると22万5000キロワットサーマル。地中熱利用促進協会は工程表の「ベストシナリオ」で30年度に現状比1・9倍の44万1000キロワットサーマル、50年度に同3・9倍の88万9000キロワットサーマルの累積導入量を目指す。直近は年1万キロワットサーマルの新設で推移しており、目標達成にはハイペースでの導入が必要だ。
笹田政克理事長は「東日本大震災後、再生可能エネルギーブームに乗って導入が伸びたが、今は踊り場」と話す。工程表の公開に合わせて開催されたシンポジウムで、初期費用の高さのほか、知名度の低さも課題に挙がった。庁舎や病院への地中熱HP導入を手がける梓設計(東京都大田区)機械システム部の阿部克史部長は「顧客への説明に労力がかかる。認知度が低く、設計者として苦労している」と打ち明けた。
大阪市環境局環境施策部の河合祐藏部長は規制緩和を求めた。地下水を冷暖房に使う方式があるが、地下水利用は制限されており、導入しづらい。そこで大阪市は企業と共同で使用後の地下水を地中に戻す技術を実証。政府から国家戦略特区に認められ、大阪駅(大阪市北区)前の再開発ビルに新技術を導入した実績がある。
河合部長は「導入の検討を義務化してはどうか」とも提案した。建築物の設計時、地中熱HPの費用対効果を検討してもらうだけでも導入のきっかけになるという。
また、地中熱利用促進協会の安川香澄副理事長は、欧米では暖房での地中熱HPの利用が多いのに対し、日本は冷房での実績が豊富と報告。「データセンター(DC)は冷房の使用量が多い。DCへの地中熱HP利用を日本発で発信してはどうか」と呼びかけた。
工程表では農業ハウスや集合住宅への用途拡大も普及に必要だとした。国内の導入を用途別にみると戸建て住宅が1261件とトップで、事務所の421件、庁舎の290件が続く。
海外に目を向けると中国の地中熱HPは日本の100倍以上の導入量がある。日本と国土の面積が同等のフィンランドやドイツも10倍だ。主要機器であるヒートポンプは日本メーカーが強い。国内での地中熱市場の拡大は日本メーカーのビジネスチャンスにもなる。
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