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脱炭素化で普及なるか。「地中熱」活用に吹く追い風

脱炭素化で普及なるか。「地中熱」活用に吹く追い風

地中熱を熱交換する空調設備(笹田理事長の所有ビルの屋上)

1年を通して温度が安定している地下の熱エネルギー「地中熱」も再生可能エネルギーの一つだ。外気よりも夏は涼しく、冬は暖かい地中熱を活用すると空調を大幅に省エネルギー化できる。しかしコストがネックとなって導入は3000件ほど。政府は地域の脱炭素化を支援する方針を打ち出しており、地中熱関係者は普及への期待を膨らませている。

年間エネ消費、ヒートポンプ使い半減

東京都が公表している地中熱ポテンシャルマップによると、都内では地下10メートルより深い地中の温度は17度Cに保たれている。この熱を空調設備で利用するのが地中熱ヒートポンプだ。夏、通常の空調は30度Cを超える外気を冷やすためにエネルギーを消費する。17度Cの地中熱を利用すると冷気を作るエネルギーを節約できる。同じように冬は暖房のエネルギーを抑えられる。

地中熱をくみ上げる方法の一つに、地下100メートル付近と地上との間に液体を循環させる方式がある。液体に地下の熱を伝えて地上の空調設備で熱交換する。液体は熱が奪われるが、地下に戻すと再び地中の熱が伝わる。

地中熱利用促進協会(東京都杉並区)の笹田政克理事長が所有する都内のオフィスビルも同じ方式を採用している。空調を更新した08年、車2台分の駐車スペースを掘削し、地下75メートルから液体をくみ上げ5階建てビル屋上の空調設備で利用するようにした。夏の6―9月は70%近い省エネになるという。

他にも同協会が14施設を調査したところ、5施設が年間のエネルギー消費を通常の空調に比べて40―50%削減していた。地中熱は天候に左右されず夜間も利用できるため、1年を通じて省エネ効果を発揮する。

しかし、地中熱ヒートポンプの導入は3000件にとどまる。笹田理事長は「10年前からコストが下がっていない」と理由を挙げる。太陽光パネルは需要が増加して価格が下がったが、地中熱は普及テンポが遅くコスト削減が進んでいない。補助金があっても投資回収に10年ほどかかる。

コスト課題 ZEB政策・補助金 追い風

それでも現在、追い風が吹き始めた。エネルギー消費を実質ゼロに近づけたゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)のうち、1割は地中熱を採用した実績がある。国は補助金などでZEB化を後押ししており、地中熱の導入が増えそうだ。また「二酸化炭素(CO2)削減効果が多く、ESG(環境・社会・企業統治)を意識する企業からの採用も見込む」(笹田理事長)と話す。

国が6月に策定した「地域脱炭素ロードマップ」にも再生エネや電気自動車などと一緒に「再エネ熱」「地中熱」も記載された。国は交付金を出して地域の脱炭素を支援するため、自治体などで地中熱への関心が高まりそうだ。実際、横浜市の新庁舎など公共施設での採用が増えている。

これまで環境問題に関心を持つ中小企業が地中熱の導入を担ってきた。脱炭素への移行に伴って地中熱も普及すると地域経済の活性化にもつながる。地道に啓発してきた同協会の会員約150社も、国や自治体の脱炭素への取り組みを注視する。

日刊工業新聞2021年10月1日

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