再生エネ導入3倍へ…異例の政策提言をした企業連合、参画2社の思い
事業で使う電力全量の再生可能エネルギー化を目指して活動する国際組織「RE100」も提言を公表し、2035年度までに日本の再生エネ導入量を22年比3倍にするように求めた。RE100には400社以上の世界的な企業が加盟している。日本からも87社が名を連ねるとはいえ、国際的な企業連合が日本政府に政策提言するのは異例だ。RE100が提言した最大の理由が、日本の再生エネの調達の難しさだ。加盟企業の再生エネ比率が50%に達するが、日本に限ると25%と低い。RE100参画の日本企業2社に提言への思いなどを聞いた。
【お知らせ】次世代型太陽電池の本命がわかる新刊「素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池」好評発売中
原材料調達に危機感―洋上風力に参画・水素転換/キリンHD常務執行役員CSV戦略部長・藤川宏氏
―なぜ、キリンHDは気候変動対策を重視するのですか。
「気候変動は生態系の崩壊を招く恐れがある。当社の事業は生物資源に依存しており、異常気象によって原材料が調達できなくなるかもしれない。入手できたとしても価格が高騰すれば、事業への影響を避けられない。経営の持続可能性のために気候変動対策が重要だ」
―具体的な取り組みは。
「まず省エネルギーの徹底であり、かなり進んだ。次に再生エネだ。作られた再生エネ電力を買うだけでなく、洋上風力発電事業にも参画していく。そして最後は化石燃料から水素へのエネルギー転換。水素利用も当社だけではできず、同じ目的を持った他社と協力して進める」
―洋上風力発電や水素事業にも関与する狙いは。
「いずれ再生エネの供給不足や価格上昇が起きるだろうから、少しでも関与して自分たちで調達できるようにしたい。また、日本は再生エネの導入が進んでいないと言われている。いつまでも“待ち”の姿勢だと、自分たちの目標も達成できないだろう。少しでも加速させるために政策提言などに関与する」
―RE100は「再生エネ3倍」達成への具体策も提言しました。
「インフラが重要と思っている。洋上風力発電を建設しても、発電した電力を使うために送配電網の強化が必要であり、地域ごとのネットワークも求められる。そして電力のコスト構造を透明にし、再生エネを使った企業が納得できるようにしてほしい」
サーバー電力を切り替え―広告主に脱炭素アピール/LINEヤフー執行役員サステナビリティ推進統括本部長・西田修一氏
―なぜ、LINEヤフーにとって再生エネが必要ですか。
「我々は多くのサーバーを使って事業を運営している。そのサーバーは大量の電力を消費する。事業の継続性から、再生エネで賄っていくべきだ」
―化石燃料による安価な電力を使った方が収益上はよいですが。
「短期なら化石燃料が利益的に良いかもしれないが、長期的には評価されなくなる。世界的に炭素の排出が害悪となったからだ。炭素を出して環境に負荷を与えることは事業リスクであり、ユーザーから選ばれなくなるかもしれない」
―リスクは顕在化していますか。
「広告を出稿いただく企業から、当社の脱炭素への取り組みについてヒアリングを受ける機会が増えた。いずれ、脱炭素を基準に出稿を判断されるだろう。我々はクライアント企業のスコープ3排出量に当たるため、取り組みを進めないといけない」
―現在の再生エネ調達の状況は。
「23年実績でグループの60%を再生エネに切り替えた。再生エネメニューの電力購入のほか、証書も入手している。ただ、価格リスクを考えるとポートフォリオ(配分)が大事になる。固定価格で調達できるコーポレートPPA(電力購入計画)も有効な手段なので検討していく」
―RE100の提言で重要と思う点は。
「電力価格の透明化や公正化が大切だ。電力の価格決定メカニズムが分からないと、将来の見通しを立てられない。また、高価な再生エネ電力を使う企業は、化石由来電力を使う企業との競争で不利になる。再生エネ電力を使う企業が優遇されると公正になる。再生エネ由来と化石由来の電力価格の逆転も大事となる」(編集委員・松木喬が担当しました)
【お知らせ】次世代型太陽電池の本命がわかる新刊「素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池」好評発売中