太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言
高い目標「75%以上」設定
国の温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標を見直す議論が政府内で始まった。現在の目標は「2030年度46%削減(13年度比)」だが、新目標は35年度の削減量を決める見込みだ。排出量を左右するエネルギー基本計画も話し合われており、企業グループからは高い目標設定と再生可能エネルギーの大量導入を求める提言が出されている。提言の狙いをグループ代表らに聞いた。
【お知らせ】次世代型太陽電池の本命がわかる新刊「素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池」好評発売中
245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GHG排出量を2035年度までに13年度比75%以上削減する目標を求める提言を発表した。実現のため再生エネ比率を60%以上に高めるように要望した。また、政策を決定する国の審議会にエネルギーを使う企業が参加できるようにも訴えた。
深刻な気候災害を防ぐには、世界全体の排出量を19年比60%削減する必要があることが国際的な認識となっている。JCLPは日本が世界に先行するために「75%以上削減」を要請した。また、脱炭素化の遅れが日本の産業基盤を損なうと主張した。
提言の具体策として、住宅屋根やビル屋上への太陽光パネルの導入加速を要望。日本は面積当たりの太陽光発電の導入量が世界トップとなり、追加できる適地がなくなったと言われる。一方でJCLPは屋根・屋上に大きな余地があり、導入拡大が可能と訴えた。さらに、太陽光発電を利用する中小企業に対する資金調達の支援も求めた。
JCLPは提言を国会の超党派議連や経済産業相、環境相に手交した。受け取った伊藤信太郎環境相は「環境省としては、JCLPをはじめ企業の実践を加速化できるように需要側の取り組みを主導したい」と語った。
JCLPには富士通や富士フイルムホールディングス、リコー、村田製作所、武田薬品工業などが参加する。
インタビュー 日本、経済的メリット大きい/JCLP共同代表(戸田建設会長)・今井雅則氏
提言の狙いや思いをJCLP共同代表の今井雅則氏(戸田建設会長)に聞いた。
―75%以上削減の高い目標を求めた理由は。
「地球環境を考えると、一刻も早く脱炭素を達成しないといけないからだ。猛暑や豪雨で人々の暮らしや企業の営みが脅かされている。建設現場では労働環境への影響が深刻だ。一方、日本にとって脱炭素は経済的メリットも大きい」
―経済的なメリットとは。
「日本は年30兆円を海外に支払って化石燃料を輸入している。『35年60%以上』に再生エネを増やせば、15兆円以上を国内に還流できるとの試算もある。ペロブスカイト太陽電池や浮体式風力、蓄電池を国産化できれば、さらに国益が増進する」
―逆に脱炭素が遅れると、産業基盤を毀損(きそん)すると訴えています。
「安価なグリーン電力が手に入らないと、グローバル企業は日本に拠点を設けない。また、グリーンエネルギーで作らないと日本企業の製品は海外で買ってもらえなくなる。今のままではビジネス機会を失う」
―提言の達成に必要なことは。
「政府が目標を発表すること。高い目標を出してくれれば、企業は付いていく。新しい産業も創出され、経済に元気が生まれる。そうなれば、ネガティブな脱炭素ではなくなる。サプライチェーン(供給網)まで考えて産業構造を転換していく方向を示さないといけない」
―風力発電設備は輸入に頼っています。他の脱炭素製品も含めて国産化したくても製造業は人手不足が懸念されます。
「憧れの産業にすることが大切だ。モノづくりにインセンティブを与え、プライドを作る。そのための教育も重要になる」
―JCLPのように気候変動対策の強化を求める企業が集まって提言する意義は。
「1社が政策を提言しても政府に聞いてもらえない。同じ思いを持った企業が集まれば、発信力が高まる。政府や国会議員に現実を理解してほしいので、対話が重要と思っている」
【お知らせ】次世代型太陽電池の本命がわかる新刊「素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池」好評発売中