防衛装備品の供給網維持…中小企業に浸透へ、試される支援策の効果
防衛省が防衛装備品などのサプライチェーン(供給網)の維持・育成に力を入れ始めている。防衛装備品産業は三菱重工業のような大手企業から、熱処理や金属加工を手がける中小企業まで裾野が広い。しかもその1社1社が完成品に不可欠な技術を有しており、1社が廃業や撤退をすると、前線の装備品の性能や稼働率に支障を来す。防衛予算は2024年度から大幅に強化されているが、中小企業への浸透はこれからで支援策の効果が試される。(編集委員・嶋田歩、大阪・田井茂)
費用補助制度の認知拡大
防衛省は23年10月に施行された「防衛生産基盤強化法」に基づいて支援策をスタートした。指定装備品の製造を行う企業は、安定的な生産を確保するための取り組みにかかる計画書を同省に提出。認定を受ければ取り組みに必要な費用が補助される。主なイメージでは最新NC旋盤の導入などによる加工精度や生産性の向上、人工知能(AI)による検査工程の自動化、原材料国産化や代替素材開発にかかる費用、サイバーセキュリティー強化にかかる費用、撤退予定企業から人材や設備の承継にかかる費用―などだ。
防衛装備品の全体予算は高額でも、個々の下請けや中小企業に来る時の注文は数量が少なく、部品修理では1品単位の依頼もある。限られた数量ゆえに設備投資もなかなか行えないのが実情で、高齢化や技能伝承の悩みもある。防衛省は支援制度の企業向け説明会を全国各地で開催し、24年度はこれまでで41件を認定して55億円を交付。うち中小企業は33件で、45億円と多数を占めた。同省は「もっともっと制度をPRし、サプライチェーンのモノづくり基盤強化につなげたい」(担当者)と語る。
ドローンなど、新興の技術取り込み
防衛省のもう一つの課題は、新興企業の技術の取り込みだ。飛行ロボット(ドローン)や無人機、ロボット、AIなどの新技術で防衛手段が変化するにつれ、民間で先行するこれらの開発製品を装備品の実装に生かす必要がある。23年9月から、新興企業との意見交換会やマッチング商談会を頻繁に開催。新興企業側もまた自社製品の売り込み先として防衛装備品市場に注目している。
国産ドローンを手がけるACSLの鷲谷聡之社長は「以前より災害用途で消防庁などでドローンを採用いただき、自衛隊でも同じ需要や災害時以外での活用が進むだろうと考えていた」と話す。東京・市ケ谷の防衛省に数年前から売り込みを開始し、注文にこぎ着けた。「防衛省に採用されることはセキュアという点でもアピールになり、国内・海外ともに訴求できる」と信用効果を強調する。
長距離無人機を開発するテラ・ラボ(愛知県春日井市)の松浦孝英社長は「ウクライナ戦争の勃発が参入のきっかけになった」と明かす。ドローンが実践投入されていく状況を受けて日本の安全保障を深く考えるようになった。「兵器の開発と防衛の開発ではまったく考え方が異なることを学んだ。民間主導のアジャイル型の開発思想を取り込めば時間も予算も大幅に圧縮でき、有能人材を取り込むことも可能となる。結果として防衛装備品産業も発展できるのでは」と語る。
重量物を持ち上げる物流や建設現場で、腰負担を軽減するアシストスーツを手がけるイノフィス(東京都八王子市)。乙川直隆社長は「防衛産業でアシストスーツの需要があることは知っていた。民間で活用されている製品を防衛産業に導入しようというデュアルユースの検討が本格的に始まったことで、イノフィスとしてこのタイミングで参入することを決めた」と話す。