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林業変革「切って売る+α」、過疎化の村で創業した「東京チェンソーズ」の模索

林業変革「切って売る+α」、過疎化の村で創業した「東京チェンソーズ」の模索

規格外の木で商品を開発する工房

東京都檜原村は都心から西へ50キロメートルに位置する。急峻(きゅうしゅん)な山に囲まれ、平地が少ない山村だ。都内とはいえ、過疎化が進んで人口は2000人。この村で2006年、東京チェンソーズが創業した。「木を切って売る」だけにとどまらず、多角化して利益率の高い林業を目指している。従業員は当初の4人が24人に増えた。今、都市部の企業との連携を模索する。(編集委員・松木喬)

会員制の植林、300口到達 1本まるごとムダなく商品に

居間から縁側越しに見える景色は山だけ。室内は畳敷きで、蚊取り線香の煙が扇風機で拡散されている。田舎の家にいる感覚だが、東京チェンソーズのオフィスである。

本社とした古民家は、山の斜面にできた狭い平地に立つ。創業からまもなくして、地元の個人から借りた。青木亮輔社長は「築400年と言われた」という。近年、古民家をオフィスにする起業家が珍しくないが、同社は先駆けだ。

青木社長は大学を卒業して出版社に勤務した。だが、学生時代に造園のアルバイトの時、足袋で土を踏んだ感触を忘れられず、各地の森林組合に働かせてほしいと電話をかけた。どこも門前払いされ、諦めかけた時、都内で募集があって檜原村の組合で働くことになった。

そこで知ったのが補助金に頼った事業環境だった。しかも日給制なので休日が多いと、作業者の収入は減る。林業の構造を変えたいと組合で知り合った4人で東京チェンソーズを立ち上げた。

山を購入し、入会費5万円を支払うと3本の苗木を植樹できる「東京美林倶楽部」を始めた。会員は下草刈りや枝打ち作業にも参加し、25年目と30年目に木を受け取れる。周囲は「わざわざ植林に5万円を払う人がいるのか」と冷ややかだったが、会員は300口に達した。森林体験の価値が認められたのだ。

林業は苗木を植えて伐採まで50―60年かかる。将来の市場が読めない中で、先に買い手がいると経営的に安心する。「顔が見える林業だ」(青木社長)と手応えを話す。

17年、環境に配慮した森林資源の証しである「FSC認証」を取得した。森林の管理を世界基準に引き上げ、その価値を木を購入する企業、その先の消費者にも伝えるためだ。ただ、成長する範囲でしか伐採できない制約が生まれ、売上高を抑えざるを得なくなった。

そこで始めたのが「1本まるごと販売」だ。通常、1本の木のうち建材などに使われるのは幹の部分。5割を占める枝や先端、根は規格外であるため山に捨てられている。

ただ、枝でも樹皮を剥いで磨いてカットすると商品になる。例えば鍋敷きは1枚2000円の値が付き、丸太の価格に近づく。規格外の木でも手間をかけて商品を開発すると、伐採に制約がかかっても売上高を伸ばせるようになった。同社のオンラインストアではトレーやテーブル、いすなど、さまざまな商品を販売している。

山への関心呼び起こす 利益上げ、環境貢献

山の仕事を体験できる企業研修も積極的に受け入れる。青木社長は「しっかりとしたプログラムを提供できたら利益率が高まる。社員の待遇改善には付加価値の高い仕事が必要」と話す。また、研修参加者の食事などで地域経済にも貢献できる。

「林業は強い産業になる」と語る青木社長。オフィスである古民家の前で

「街の人が山と関わるきっかけをつくることが、我々の役割」とも語る。どの都市にも河川があり、その上流に水源の山がある。山村の過疎化が進むと、山を整備する人も減る。山林が放置され、荒廃すると下流で洪水の危険が高まり、海も汚れる。都市の人に山への関心を持ってもらい、木を使うだけでなく、訪れて空間を使ってもらうことが「流域の健全性につながる」と力説する。

林業の成功モデルを目指すが、道半ば。「林業は強い産業になる。利益を上げながら、環境に貢献できる。今の時代、すごく魅力的だ」と固く信じる。

企業にとって、地域の山の保全はネイチャーポジティブ(自然再生)の実践になる。12日は山の恵みに感謝する「山の日」。企業は森を守る林業関係者の支援を考えても良さそうだ。

日刊工業新聞 2024年8月15日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
取材をして日本の木を使おう、地域の木を使おうと思いました。家具を毎日のように購入できないので、割り箸や他の木製品、もしくは紙製品で「原料は国産」と分かる表示があれば、選んで買いたいです。

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