ニュースイッチ

カメラ新機種、熱い商戦…キヤノンはミラーレス初旗艦モデル・リコーは21年ぶりフィルムカメラ

カメラ新機種、熱い商戦…キヤノンはミラーレス初旗艦モデル・リコーは21年ぶりフィルムカメラ

満を持して11月に発売するキヤノンの旗艦モデル「EOS R1」

各社が独自性追求、既存ファン深耕・新規開拓

国内カメラ各社が新機種を相次いで投入している。キヤノンは注力するミラーレスカメラブランドの「EOS Rシステム」から初のフラッグシップ(旗艦)モデルを11月に発売する。ニコンや富士フイルムも独自の機構や機能で差別化を図り、リコーは21年ぶりにフィルムカメラを開発した。プロから初心者まで各層がそれぞれの楽しみ方を追求できる多様なラインアップを各社展開しており、カメラ市場の活性化に期待がかかる。(新庄悠)

キヤノン 被写体追尾、粘り強く

「最高の性能と信頼性、この2本柱を両立させた」。イメージンググループ管掌の戸倉剛キヤノン副社長執行役員は、旗艦モデル「EOS R1」についてこう自負する。キヤノンはこれまで旗艦モデルに「1」の数字を授けてきた。満を持して投入するR1の特徴は「瞬間を切り取り、被写体を逃さない」(戸倉副社長執行役員)オートフォーカス機能だ。

従来の映像エンジンと新開発の映像エンジン、さらに新開発のCMOS(相補型金属酸化膜半導体)センサーを組み合わせた新映像エンジンシステムにより、大量データの高速処理が可能となった。また、ディープラーニング技術との融合で高速・高精度なピント合わせを実現。複数人が入り乱れるチームスポーツなどの撮影でも、被写体を粘り強く追尾し続ける。

プロが使用する過酷な環境にも耐えられる防塵・防滴性能も備え「120点を狙って作り上げた」(同)と太鼓判を押す。この旗艦モデルでプロの期待に応えていく。

ニコン 1秒に120コマ撮影

ニコンは、独自の部分積層型CMOSセンサーを搭載したミラーレスカメラ「ニコン Z6III」を7月に発売した。新センサーはイメージセンサーの上下に高速処理回路を多数配置する独自の機構だ。画像処理エンジンは同社旗艦モデル「Z9」と同じ「EXPEED7」を採用。新センサーと同エンジンによって高い撮影性能を引き出している。

中でも特徴的なのが、シャッターボタンの全押しから最大1秒間さかのぼって記録ができる「プリキャプチャー」。1秒間に最大約120コマの撮影が可能となっている。電子ビューファインダー(EVF)はZ9を超える明るさに対応し、極めて明るい場所でも被写体の細部まで確認できる。大村泰弘専務執行役員は「最高級機で搭載した機能や先進機能をふんだんに盛り込んだ。コアなファンからハイアマチュア、これからカメラを始める人まで支持してもらっている」と胸を張る。

富士フイルム モード簡単切り替え

一方で、写真フィルムの良さを打ち出すのが富士フイルムとリコーだ。富士フイルムは祖業の写真フィルムで培ってきた色味の豊かさを楽しんでもらう機能として、多彩な色調を表現できる「フィルムシミュレーション」を展開している。「当社独自機能による差別化ポイントで、ファンからも好評」(同社広報)と自信を示す。

富士フイルムの「FUJIFILM X-T50」のフィルムシミュレーションダイヤル

6月末に発売した初心者でも使いやすいミラーレスカメラ「FUJIFILM X―T50」では、この機能をより気軽に使えるよう、モードを簡単に切り替えられるダイヤルを初搭載した。全20種類のフィルムシミュレーションモードの中から、被写体やシーンに合わせて写真フィルムを選ぶ感覚で多彩な色表現を楽しめる。発売以降「30代以下の若年層から引き合いが強い」(同)という。

リコー フィルムカメラ投入

リコーはフィルムカメラそのものの伝承に力を入れる。子会社のリコーイメージング(東京都大田区)が7月に発売したコンパクトカメラ「PENTAX(ペンタックス)17」は、フィルムカメラならではの操作感を味わえるよう手動の巻き上げレバーを備える。

想定の数倍の注文があったリコーの「PENTAX 17」

ファンにとって待望のフィルムカメラ新製品は発売前から予想を大幅に上回る注文があり、「全世界で品薄状態になっている」(同社広報)。現在、同社EC(電子商取引)サイトでは受け付けを一時停止している。

味わいのある色合いや現像するまで結果がわからないワクワク感など、若年層を中心にフィルムカメラ人気が広がる。ただ、フィルムカメラは多くが中古品になり、保守の必要性や価格の上昇といった状況が若者や初心者の楽しむハードルを高くしている。同社が21年ぶりにペンタックスブランドからフィルムカメラの新製品を開発したのもこうした背景からだ。

キヤノンと富士フイルムホールディングス、ニコンはいずれもカメラ事業の好調などを背景に通期業績の上方修正を発表した。スマートフォンの普及で撮影が身近になった一方、より個性を出したい人や本格撮影を楽しみたい人も増えている。多様な撮影ができるカメラが求められる中、各社は独自性で既存ファンの深耕と新規ユーザーの開拓を推し進める。


【関連記事】 ミラーレスカメラの性能を決定づける異色の半導体メーカー
日刊工業新聞 2024年8月15日

編集部のおすすめ