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「高温ガス炉」研究開発が強み、理事長が語る原子力機構のこれからと人材育成

「高温ガス炉」研究開発が強み、理事長が語る原子力機構のこれからと人材育成

日本原子力研究開発機構理事長・小口正範氏

2050年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けた動きが加速している。日本原子力研究開発機構は、高温ガス炉の研究開発が強みであり技術力は世界から評価が高い。原子力機構の小口正範理事長に、原子力のこれからと組織のあり方、原子力人材の育成などを聞いた。

―脱炭素に向けた動きが加速しています。
 「GX(グリーン・トランスフォーメーション)が世界のトレンドになる中で、原子力は発電だけでなく脱炭素に向けた社会課題の解決に活用できることが注目されている。こうした流れの中で、原子力が持続可能なエネルギーであることが明確になりつつあると感じている。日本は高温ガス炉をはじめとした技術力が高く、新しい技術開発にも積極的に取り組んでいる。世界各国との研究協力などの連携も増えている」

―大幅な組織改正を実施しました。
 「海外との共同研究や新たな取り組みを進めることが求められているが、原子力機構の人材は限られており、有効に活用しなければならない。そのためには目的に合致した組織を作り、業務プロセスに合った人材を育てることが重要だ。そこで組織改正を実施した。具体的には縦割りを廃止し、階層を減らして人が流動化する仕組みなどを導入した。さらに最高研究開発責任者(CTO)を設置し、世界の原子力の動向を見極めて最先端の研究開発を進める体制を作った。年功序列も撤廃し、研究所の所長に中堅層や女性を起用するといったこれまでの原子力機構では見られなかった人事も実施した」

―人事制度なども改めました。
 「機構全体の研究プロジェクトに関して計画的に成果を創出するためには、職員個人の能力を見極めて適正に合った部署に所属させる必要がある。そこで与えられた仕事への理解・考察力とコミュニケーション力、実行力を評価基準とした。また職員の教育体制も強化する。若手職員や未経験者らが先輩社員の持つノウハウを学べる仕組みを作る。従来は部署ごとに職場の実務と並行しながら技術や知識を引き継いでいたが、それでは効率が悪い。より良い人材育成が必要と考えている」

【略歴】こぐち・まさのり 78年(昭53)北大法卒、同年三菱重工業入社。14年執行役員グループ戦略推進室長、15年取締役常務執行役員最高財務責任者(CFO)、18年副社長、20年顧問。22年から現職。栃木県出身、69歳。
日刊工業新聞 2024年08月05日
飯田真美子
飯田真美子 iidamamiko
国立研究開発法人は年功序列で女性が部署のトップに少ない傾向が見られがちであり、原子力機構のような大幅な組織改正は珍しい。こうした思い切った動きができるのは、小口理事長が民間での経験があるからだろう。自然科学系の国研の理事長は研究者出身が多いが、経営に強い民間出身者がメスを入れることも重要と感じた。

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