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人・ビル「2つの老い」、マンション守る警備会社の取り組み

人・ビル「2つの老い」、マンション守る警備会社の取り組み

マンションの長寿命化は適切な管理と計画的な大規模修繕がカギとなる

全国を24時間監視

マンションをめぐる「二つの老い」と称した課題として、建物の老朽化と居住者の高齢化が進行している。背景には築40年を超える高経年化したマンションと、70歳以上の居住者がそれぞれ増えたことがある。老朽化した設備、高齢者の安全と安心を多方面でサポートしようと、警備会社が全国に配置する警備員を活用した取り組みを加速している。(地主豊)

機械警備・名簿更新で居住者把握

マンションの警備は建物の共用部や管理人室、住戸を対象に火災やガス漏れ、犯罪の発生、居住者の健康状態の監視を警備会社が担ってきた。建物内にセンサーや警報器を設置し、異常検知時に警備員が駆けつける機械警備のニーズが高まっている。機械警備を主力とする大手が全国展開する待機所や監視体制を駆使して需要を取り込んできた。

世帯主の年齢(マンション完成年次別・昨年度)

国土交通省はマンションの「二つの老い」への対策の一つとして、管理規約を作成・変更する際のひな型となる「マンション標準管理規約」を6月に改正。「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」を2023年8月に取りまとめ、標準管理規約やガイドラインを見直した。

主な改正点は組合員名簿の作成に年1回の更新を推奨する内容を加えた点や、居住者名簿の作成と年1回の更新について新たに明文化した点だ。国交省は「区分所有者と居住者が異なったり、居住者不在の空き家状態など管理組合で把握できていないケースもあった」と指摘。「高齢者や乳幼児、障がい者が住んでいる情報などを共有することで防災名簿にもなる。緊急時の救出活動などに役立ててほしい」としている。

設備面では、修繕積立金の変更予定などの見える化について推進している。国交省は「居住者にとって修繕積立金は、住宅ローンと同様に毎月固定で支出するもの。金額が何年後にどのくらい上がるかなど計画内容を事前に周知することが望ましい」と説明する。

社会全体で高齢化が進む中、マンションの公共性を踏まえた国による持続的な仕組みづくりは進展しつつある。同時に、設備と居住者の安全・安心をサポートする製品やサービスの存在感が今後高まりそうだ。

ALSOK、給排水・ガス・昇降機に対処 応急処置、遠隔から助言

綜合警備保障(ALSOK)は警備員の待機所を全国約2300カ所に展開し、マンションの設備と居住者の異常事態に対応している。「ALSOK設備レスキュー」はマンションやビルの設備機器の異常発生時、駆けつけた警備員が原因究明や応急処置まで行うのが特徴だ。東京都と神奈川県限定だった対象地域を7月から全国に拡大した。

さまざまな警備システムの司令塔を担うALSOKのガードセンター

警備員が24時間体制で出動することに加え、設備の異常に対して分析・対処するようになった。従来は契約者への報告で完結していたが、設備専門スタッフと現地映像を共有しながらアドバイスを受けて対応する。対象は給排水・消防・ガス設備や昇降機など15種類の建物設備。どれか一つに機械警備システムを接続していれば、15種類全てがサービス対象となる。

設備レスキューは警備員が該当設備の状況を確認し、新型端末で設備専門スタッフと情報共有しながら応急処置を行う

主な販売対象はマンション・ビルの管理会社やオーナーなど。ALSOK商品サービス戦略部の大井孝修課長代理は「管理会社は夜勤など不規則な勤務環境もあり、若い従業員が減っている。人手不足による需要は高まりつつある」とみる。

一方、高齢者向けの緊急通報・相談サービスとして「HOME ALSOK みまもりサポート」を展開する。火災やガス漏れ、対象者の生活状態をセンサーで監視し、状況に応じて警備員が駆けつける。相談ボタンでグループ会社の看護師などが音声で健康相談にも対応する。全国の個人や法人のほか、ALSOKグループ全体で約520の自治体において緊急通報の事業に導入している。

無線式のセンサーでは居住者の体調不良の早期把握を図る。HOME ALSOK事業部の助野現主任は「生活状態の見守りは孤独死の早期発見にもつながる」と見通す。

看護師が電話健康相談 救急ボタンで通報

セコムは警備員の待機所を全国に約2600カ所展開する。マンション向けのセキュリティーシステム「MS―5A」などを販売している。コントロールセンターが24時間体制でオンライン監視する。異常信号で住戸の異常を把握すると、状況に応じて電話確認や警察・管理会社などへの通報を行うほか、警備員が現場に駆けつける。

セコムの警備員。コントロールセンターが24時間オンラインで安全を監視し、状況に応じて出動を指示する

住戸や共用部、管理人室が対象で、火災監視などを行う。オプションで住戸の防犯監視や設備監視、安否の見守り、電話健康相談、共用部の設備・ガス漏れ監視などを担う。

設備監視は主に給排水・電気設備、エレベーター閉じ込めなどが対象。異常を検知するとコントロールセンターに信号が届き、現場の状況や管理会社との取り決めに沿って対応する。専門会社に対応を依頼するか、警備員が駆けつけて状況確認後に判断する。原則として警備員は復旧の対応を行わない。

高齢者向けとなる住戸のオプションサービスもある。安否の見守りは在宅時にセンサーが人の動きを一定時間感知しないとセコムに異常信号を送る。電話健康相談は同社の看護師が、医療機関や専門医について24時間対応する。救急通報は体調不良やけがの際、ペンダント型の救急ボタンを握るとセコムに通報できる。

同社は「居住者から強く求められる『暮らしの安心』に対して窓口となり、マンションにさらなる価値を与える」としている。

居住者の高齢化進む 「70歳以上」昨年度25.9%

国交省がマンション管理の実態を把握するために5年ごとに行う調査によると、23年度は70歳以上の居住者が25・9%を占め、18年度と比べて3・7ポイント上昇した。一方、40代以下は同4・1ポイント低下し、居住者の高齢化が進展していることがうかがえる。

築年数が多いほど70歳以上の割合は高く、1984年以前のマンションでは55・9%に上った。

調査対象は全国のマンション管理組合と区分所有者。居住や管理、管理組合の運営の状況などをまとめ、結果を6月に発表した。

日刊工業新聞 2024年7月11日

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