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暴言・過剰要求には毅然と…「カスハラ」から従業員守る、ANAとJALが共通方針

暴言・過剰要求には毅然と…「カスハラ」から従業員守る、ANAとJALが共通方針

ANAの宮下部長㊧とJALの上辻部長

全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)の航空大手2社は、利用客などによる迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対応方針を共同でまとめた。暴言や過剰な要求、社員を欺く行為などに、毅然と対応し、組織的に対応することを決めた。サービス品質の維持のためにもカスハラから従業員を守ることは喫緊の課題だ。鉄道でも同様の動きが広がる。(梶原洵子)

ANAとJALが共同でカスハラ対策を行う背景には、従業員の離脱に対する強い危機感がある。2023年度の調査によると、両社とも約300件のカスハラ事案が確認された。土下座の要求や長時間の拘束、能力を否定する暴言もあり、休職や退職に至った例もある。

「これまでカスハラの明確な基準がなく、現場では対応に迷い、苦慮していた」(ANAの宮下佳子CX推進室CS推進部長)。そこで、両社は「顧客などの優越的な立場を利用した法規違反行為や社会通念上相当な範囲を超える対応を要求する行為などで従業員の就業環境が害されること」とカスハラを定義。例として、暴言や暴行、業務スペースへの立ち入り、会社や社員の信用を毀損させる会員制交流サイト(SNS)投稿、セクハラなどを挙げた。

今後、共通方針をもとに大手2社が対策を進することで業界からカスハラをなくすことを目指す。また、行為の例を周知し、「カスハラと知らずにしてしまっていたカスハラの減少を期待する」(JALの上辻理香カスタマーエクスペリエンス本部CX推進部長)。

また、従業員を守る姿勢を明確に示し、業界の魅力を高めて人材確保につなげたいという思いもある。一方、「お客さまの意見や要望は金言」(ANAの宮下部長)とし、カスハラではない要望には真摯(しんし)に向き合いサービス向上を図る。

鉄道係員に対する暴力行為の発生状況

鉄道業界でもカスハラへの毅然とした対応が広がる。JR東日本はカスハラ対策の方針に、「カスハラが行われた場合には、お客さまへの対応をいたしません。悪質と判断される行為を認めた場合は、警察・弁護士などのしかるべき機関に相談のうえ、厳正に対処します」と明記した。

コロナ禍が収束し、人流が回復したことでカスハラや迷惑行為は増加している。国土交通省の調査によると、鉄道係員に対する暴力行為は20―21年度に減少したが、22年度は増加に転じた。日本民営鉄道協会の調査では、23年度の暴力行為件数は前年度から増加した。航空業界も「体感として増えている」(上辻部長)という。

カスハラは他の客にも迷惑だ。顧客とサービス提供者との健全な関係が求められる。

日刊工業新聞 2024年07月01日

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