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着々と「消費増税延期」に向かう!?変質するアベノミクス

財政健全化と経済再生、両立難しく
着々と「消費増税延期」に向かう!?変質するアベノミクス

安倍首相とクルーグマン名誉教授


ノーベル経済学者が安倍首相の援軍に


 安倍首相がサミットを控えて開催している有識者との意見交換会「国際金融経済分析会合」は、消費増税延期への布石ともみられている。

 講師はアベノミクスへの理解者が多く、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米プリンストン大学名誉教授、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授の2人は、消費増税の延期を提案した。増税延期の論拠を固めつつあるようにも映る。

 内需拡大に向けた動きは予算にもみられる。29日に成立した一般会計総額96兆7218億円の16年度予算は子育て世代や中小企業、農業など広範囲に目配りし、歳出規模は過去最大。15年度補正予算では年金受給者に3万円支給する臨時給付金を予算措置し、高齢者を含めたすそ野の広い消費喚起策を講じた。

 「経済成長なくして財政健全化なし」と訴える安倍政権。だが一連の補正などでどこまで消費を喚起できるのか不透明感は否めない。経済成長と財政健全化の“二兎”(にと)どころか、成長の一兎(いっと)を獲るのも容易ではない。

景気の回復力弱く、金融政策に手詰まり感


. 消費増税を延期すべきかは別として、日本は景気回復力の弱さが懸念される。15年10―12月期の実質GDP成長率(年率換算、改定値)はマイナス1・1%と2四半期ぶりのマイナス成長。日本経済研究センターによると、焦点の1―3月期は”うるう年“効果からプラス0・81%と小幅ながらプラス成長を主要シンクタンクは予測。安倍首相が同期の数値をどう評価するかが注目点だ。

 また主要シンクタンクは15年度の実質成長率をプラス0・67%、16年度をプラス1・04%、消費増税を前提に17年度はマイナス0・04%と見通す。消費増税を延期しても17年度は小幅なプラス成長とみられている。

 政府は20年度に基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)黒字化という財政健全化計画と名目GDP600兆円の達成を目指している。だが600兆円は年度平均で実質2%、名目3%以上の高い成長率を維持し続けることが前提だ。

 PBも、この高い成長率と17年4月の消費増税による税収増を織り込んでも20年度に6兆2000億円の赤字が残ると政府は試算。増税延期なら財政健全化はさらに遠のく。

 アベノミクスは日銀の金融緩和による円安・株高で企業収益を押し上げ、経済成長に伴う税収増で財政健全化を進めるシナリオを描く。ところが円高基調に傾く世界経済の減速懸念は、日本としていかんともし難く、金融政策もマイナス金利導入に至るなど手詰まり感を否めない。

 財政政策も、15年度補正で措置した高齢者向け臨時給付金には自民党内にも選挙対策の“バラマキ”との批判があり、視野に入れる16年度補正も臨時給付金と似た発想の商品券給付など、明確な消費喚起を期待しにくい。

 雇用情勢が改善したわりに16年春闘での賃上げ率が伸び悩んでいるのも、これまで非正規雇用対策や多様な働き方改革を怠ったことが一因している。

歳出改革が必要に


 利下げや財政出動の対症療法では消費も設備投資も浮揚効果は限定的だ。税収も増えない。金融緩和による期待インフレ醸成という“マインド戦略”から実需の創出、新産業の創造へと成長戦略を深化させつつ、これまで踏み込まなかった歳出改革に乗り出すことで財政健全化を推進したい。政権が消費増税を延期するなら、“二兎”を追うアベノミクスは総点検が求められる。
(文=神崎正樹)
日刊工業新聞2016年4月1日「深層断面」
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
1日発表された日銀短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)が2四半期ぶりに悪化。景気の先行きへの見方は厳しさを増しています。ただ、消費増税が延期されたからといって、それが消費拡大につながるとは考えにくい。将来の社会保障への不安からますます財布のひもが固くなるという見方には現役世代としても納得感があります。

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