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GDP成長率0.5-1%…日本経済、緩やかに回復も依然くずぶるリスク

GDP成長率0.5-1%…日本経済、緩やかに回復も依然くずぶるリスク

日銀による利上げの前倒しや海外経済の変調で景気回復が鈍るリスクも依然くすぶる

今年度GDP成長率0.5-1% 金融機関・シンクタンク試算

主要な金融機関・民間シンクタンクが発表した2024年度の実質国内総生産(GDP)成長率は0・5―1%のプラス成長を予想する。今春季労使交渉(春闘)で決まった賃上げなどの効果で個人消費が上向き、省人化のための設備投資が伸びるとみて日本経済が緩やかに回復する姿を描く。一方、日銀による利上げの前倒しや海外経済の変調によって景気回復が鈍るリスクも依然くすぶる。(山田邦和、編集委員・川口哲郎)

個人消費・設備投資 伸長

2024-25年度国内経済見通し

「1―3月まで日本経済の重しとなっていた一過性の要因が、今後は少なくなっていく」。野村証券の森田京平チーフエコノミストは先行きをそう予測する。24年1―3月は物価上昇に賃金が追いつかず、消費者が節約志向を強めていたところに、品質不正問題発覚でダイハツ工業が自動車の生産・出荷を停止したことも重なり、個人消費や設備投資、輸出が減少。実質GDPは2四半期ぶりのマイナス成長となった。

ただダイハツが5月に全ての国内完成車工場を再稼働し、出荷も再開したことから森田氏は「4―6月以降、景気の自律回復が期待できる」とする。大和総研の神田慶司シニアエコノミストは供給制約で生じた自動車の受注残が家計向けで37万台(約1兆円)あるとして、24年秋まで挽回生産が続くとみる。

消費に次ぐ民需の柱である設備投資も伸びが期待できる。人手不足を背景に「人への依存度を下げるための省力化投資が進む」(森田氏)と見られるためだ。米国経済が底堅いことや、中国で不動産問題に対する政策の前進が見られたことなども、輸出などの面から日本の景気を下支えしそうだ。

ただ楽観一辺倒ではない。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「自動車出荷停止の影響を除いても景気の基調は弱い」と指摘。「本格回復はインフレが鎮静化し、実質賃金が高まっていく25年度になる」として、24年度のGDP成長率を前回予想(3月)から下方修正し、前年度比プラス0・5%とした。大和総研の神田氏も金融政策の転換による国内長期金利の上振れや米大統領選の結果次第では日本経済の下振れリスクになり得るとする。

【賃金】値上げ反映、上昇率加速へ

賃上げ率

日本経済の足腰が強くなるのに欠かせないのが賃金の上昇と、GDPの過半を占める個人消費の回復だ。だが物価変動の影響を除いた実質賃金は3月時点で24カ月連続の前年同月割れとなり、比較可能な91年以降で過去最長を更新した。企業は大手を中心に製品単価の値上げで売り上げを伸ばしたが、それが賃金上昇に十分つながらず、一方で物価高が進んだため、実質的な可処分所得が減少した。

マイナス傾向に歯止めはかかるのか。今年の春闘では大企業が33年ぶりの大幅な賃上げに踏み切った。多くの企業では4月から6月にかけて実際の給与に反映される。

大和総研によると企業の利益などが賃金に回る割合を示す労働分配率も24年1―3月ですでに過去約20年の平均に近い水準に戻っている。神田氏は「コロナ禍で売り上げが減る中、企業にとって人件費の負担は重かったが、価格見直しなどでようやく適正水準に調整された。今後は値上げ効果が賃金にも分配されやすくなる」とみる。

実質賃金は24年7―9月期に前年同期比でわずかにプラスとなるものの、円安や政府の物価高対策の縮小も踏まえると、明確な回復は25年4―6月期以降になるとの見方が多い。それでも「労働生産性上昇率(1%)並みに実質賃金が増えれば消費を0・5%押し上げる効果がある」(神田氏)。特に「海外旅行や屋内施設での娯楽など、コロナ禍前の水準を下回ったままの分野で消費の伸びが見込めるため、回復余地が大きい」(同)という。

【物価】エネ価格が押し上げ

全国消費者物価指数

物価の先行きを展望すると、今夏にエネルギー価格が押し上げ要因となる。5月以降に再生可能エネルギー発電促進賦課金が増額され、6、7月には政府の電気・ガス代価格激変緩和事業が半減・終了するためだ。野村証券はコア(生鮮食品を除く)消費者物価指数(CPI)で24年度は前年度比2・8%増と予想する。

今後の物価動向を読む上で重要な点は、24年春闘で実現した高い賃上げがサービス価格を中心とした物価に波及するかどうかだ。足元の指標でサービス価格改定の動きは鈍い。野村証券の森田氏は「実質賃金が増加し、物価上昇につながる経路はまだ心もとない」と指摘する。

明治安田総合研究所は24年度のコアCPIを同2・6%増と前回より0・4ポイント引き上げた。小玉祐一フェローは「24年度は高めの物価上昇率だが、25年度にかけて再び2%を割り込む可能性が高い」と予想する。

SMBC日興証券は政府の物価対策の終了などからコアCPIが0・7ポイント程押し上げられ、24年度は同2・2%程度と見込む。ただ、日銀が目指す基調的インフレ率が2%を達成しないことなどから、「日銀の追加利上げは当面見送られる」(牧野氏)との予想だ。

野村証券はメインシナリオで日銀の追加利上げを10月と予想し、7月の利上げ確率も30%程度織り込む。明治安田総合研究所は6月に国債買い入れ減額、7月に追加利上げを予想する。

【円安】34年ぶり水準、背景に構造的要因も

四半期ベースの実質GDP成長率

ドル円は一時1ドル=160円台に乗せ、90年以来34年ぶりの水準に達した。日米金利差が主因で、円を売って金利の高いドルを買う動きが強まった。米国はインフレ抑制のため高い政策金利を続け、日銀はマイナス金利を解除したとはいえまだ緩和的な環境にとどまる。

SMBC日興証券はドル円レートの動きを日米の短期金利差から推定し、金利差0・1%縮小で1円程度の円高と試算する。米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の利下げ回数が0回で1ドル=160・1円、1回で同157・6円、2回で155・1円とのシミュレーションだ。「25年にかけて米利下げが本格化し、今後は円高方向にいく」(牧野氏)とみる。

円安は輸入コストの上昇を通じて物価高を招き、実質賃金を下押しする懸念がある。明治安田総合研究所は7―9月期に実質賃金がプラスになる可能性を想定しているが、円安の進行度合いによっては回復トレンドが遅れると分析する。1ドル=170円のケースでは10―12月期に実質賃金がマイナスに逆戻りする見立てだ。

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは歴史歴な円安が進む背景には構造的な要因があると指摘する。「貿易・サービス収支が赤字になった10年ごろから方向性が変わり、それまで続いてきた円高トレンドが歴史的に円安トレンドに転換している」(小林氏)とみる。

円安進行の傾向を変えていくためには、エネルギー自給率向上による交易条件の改善、人口問題対処、研究開発促進といった根本的な取り組みが必要となる。「日本の経済成長率を上げることと同根であり、近道はない」(同)という。

日刊工業新聞 2024年06月03日

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