“ブルーオーシャン”半導体「3D集積」が実用化へこぎ出す
半導体再興へー大学の最先端研究 #15
東京工業大学の大場隆之特任教授は富士通でロジック半導体の開発などを手がけ、20年前にアカデミアへ転じた。その後、「日本の半導体がほとんど絶滅危惧種だった」(大場特任教授)2008年、半導体の3次元(3D)積層を目指す産学研究プラットフォーム「WOWアライアンス」を立ち上げる。
当時、国家プロジェクトによらない半導体の産学共同開発は初めてだった。国プロでは難しい「目的や方向性を柔軟に変えながら進める」とのスタンスで設計、プロセス、装置、材料関連の半導体メーカーや大学など40組織、約150人の研究者からなる大所帯のチームをまとめる。
特徴は、チップレットをウエハー上に接合するチップ・オン・ウエハー(COW)と、ウエハー上にウエハーを接合するウエハー・オン・ウエハー(WOW)技術だ。バンプを使わずに垂直配線する前工程由来のシリコン貫通ビア(TSV)配線と、ウエハーの薄化技術、3D積層では国内唯一の300ミリメートルウエハーを使った実証開発を得意とする。
チップ間が10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の超並列配線で配線長を短くし、「伝送エネルギーと伝送帯域で究極の性能」を持たせた。消費電力が現在比1000分の1になり、微細化に頼らず「将来、手の指先に乗る大きさの小型3Dキューブ(BBキューブ)が作れる」と見通す。熱設計や放熱技術の開発にも力を注ぐ。
大場特任教授が18年に創業したテック・エクステンション(東京都世田谷区)は台湾で3D集積ラインを整備し、25年に量産を始める計画。「半導体は後追いでは成功できない。3Dは今、ブルーオーシャンだ。そこに軸を移し進めた方が賢いと思う」。15年来、蓄積してきた3D集積がいよいよ実用化へこぎ出す。
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日刊工業新聞 2024年05月27日
特集・連載情報
日本の半導体が再興の波に乗り、大学への期待感が強まっている。先端デバイスの研究開発は一時期、大学でも下火となった。だが、半導体分野の教育・研究を通じた人材育成や、最先端技術の開発はこれから大学の大きな使命となる。専門家はどのような未来図を描くのか。注目研究者のテクノロジー展望に迫る。