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研究予算の充足感…中堅大学で悪化、研究時間は8割が不足

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、全国の大学・研究機関を調査し、中堅大学で研究者の研究予算充足感が悪化していることを明らかにした。大学を論文数で四つに分けると第2グループ(G)と第3Gで状況認識が厳しくなっている。研究時間は8割の研究者が不足と回答。大学の財源不足が人材不足を招き、業務が増えて研究時間が削られていた。(小寺貴之)

研究者のマインドを計る総合的意識調査の2023年度版を発表した。第1Gは論文数上位4大学、第2Gが続く14大学、第3Gは続く26大学、第4Gは137大学。研究基盤や基盤的経費、競争的資金の状況認識が第2Gと第3Gは第1Gや第4Gに比べて減少した。「自分のやりたい研究を自由にできる感じではない」などの声が上がっている。

研究者のマインドは悪化している

研究時間の充足度では約8割の研究者が理想よりも少ないと回答した。理由は組織運営の会議や入試業務、研究費獲得のための書類作成などが挙がる。自由記述回答には「会議が多過ぎ。また長い」という声が多数集まった。その結果、論文執筆や実験・分析、研究構想などの時間が犠牲になっていた。

自由記述回答の要因と解決策を図解して大学経営や政策へ提案する。経営面では入試・学生対応組織の設置、研究を重視する学内合意形成を挙げる。政策面では基盤的経費の拡充や大学間競争から協働への転換を挙げた。NISTEPの伊神正貫科学技術予測・政策基盤調査研究センター長は「(調査部門が)メッセージ性を出すべきか議論はあるが、状況が改善しないため記載した」と説明する。

研究成果のオープン化にも予算の制約が生じている。オープン化の手法は、国の研究開発プロジェクトなどに関わる重点プログラム研究者は論文掲載公開料(APC)を払ってフルオープンアクセス誌に掲載し、人文社会系の研究者は所属機関のリポジトリ(電子保存システム)に投稿することが多く、それぞれ7割を占めた。

APCは高額化しており、助成制度が要望されている。APCを私費で負担した研究者は第1Gと第2Gでは0%だったが、第3Gでは10%、第4Gでは4%だった。25年度公募から始まる論文の即時オープンアクセス義務化は研究者の6割、マネジメント層の3割が知らなかった。残り1年で認知度を向上させ、支援策を整える必要がある。

日刊工業新聞 2024年5月16日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
第2、第3グループについていた予算が第1グループに吸い上げられて苦しくて、第4グループには吸い上げるものも残ってない。それでも第1グループが世界と戦うには苦しい。という構図が読みとれます。この期の定点調査は国際卓越研究大学の影響が見えるはずです。ただまだ稼働していないこともあり、卓越大の影響が現れるのは次々回の25年度分の調査になりそうです。にもかかわらず第2、第3グループは予算が厳しいと言っています。21、22、23年度とリニアに状況認識が悪化しています。基盤的経費は運営費交付金の実績に基づく配分ためだと思います。ただ競争的資金は東大などに集中しすぎないよう配慮されるようになったと聞いていました。ただ、いい提案をしても通らないと不満も大きかったので揺り戻しが起きているのかもしれません。卓越大に挑戦する大学は予算獲得に必死なので配慮も揺り戻しも大して影響ないのかもしれないです。いずれにせよ、研究時間を捻出しないといけません。ノー会議デーを大学と資金配分機関、文科省、学会などで連携して設けた方がいいように思います。予算のように会議に費やす時間を毎年削り続ければ、誰かが別の方法を発明するかもしれません。NISTEP調査では研究に当てたい時間は職務時間の46%でした。週に2日でいいから研究に集中させてくれという意見は支持されると思います。

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