国立大法人化による負の影響最大…鈴鹿医療科学大が可視化した「研究力低下」
鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は、国立大学法人化や新医師臨床研修制度などの科学技術政策による研究力低下を可視化した。経済学などで使われる自然実験という観察研究手法を用いて、政策の対象群と非対象群の大学を比較した。すると国立大学法人化による負の影響が最大となった。研究力を引き下げている可能性がある。
2004年の国家公務員総定員法と大学院重点化に加え、国立大法人化、新医師臨床研修制度の導入、06年の薬学部6年制の導入の4政策の影響を検証した。この前提に04年ごろから日本の研究論文の質と量を掛け合わせた研究力指標が低下しており、その背景には研究者の正味の研究時間と研究者数が減少していることがある。
4政策の対象となっていない早稲田大学などの私立で医学部や薬学部のない総合大学15校と、政策対象となった国立大学を比較した。すると00年から21年で非対象群の私大は1・3倍ほど研究力が伸びているのに対し、国立大は0・6―0・8倍に低下していた。地方の中小国立大学から低下が始まり、規模の大きい研究大学、東京大学と京都大学などと順に低下する様子が確認された。
総定員法では中小大学で教員や大学院生が減少し、法人化で運営費交付金が削減され研究者や研究時間が減ったことが背景にある。臨床研修制度では大学の医学研究者が診療活動にシフトし、薬学部が6年制に延びたことで教員の負担が増えた。4政策はいずれも正味の研究時間や研究者数を減少させた。
これら政策の推進力として競争原理が用いられてきた。資源の傾斜配分で大学間の差を広げても挽回は難しい。試算では韓国の研究力に追い付くためには研究資金を1兆円ほど増やす必要がある。
日刊工業新聞 2024年05月08日