半導体事業の見通し、ポートフォリオの変革…デンソー社長が語る次世代成長への展望
デンソーが自動車産業の変革への対応力を高めようとしている。従業員それぞれのスキルを見える化し、人材育成やキャリア形成に生かす仕組みを全社に取り入れた。電動化やソフトウエア化などにより、ビジネス構造が大きく変わりつつある。変化を生み出せる人材や事業拡大が得意な人材といった特性を明確にし、事業の創出や転換につなげる。
デンソーやグループ企業のソフトウエア人材4000人以上で先行導入していた仕組みを、エレクトロニクス製品といった他の技術者や事務職を含めた全社に広げた。事業領域ごとにスキルレベルを定義して見える化。個性を伸ばす環境を構築し変化に対応する。
加えて電気自動車(EV)販売が急拡大する中国を筆頭に、市場の変化に備え開発の現地化も進める。現地社員の強化や現地企業との協業拡大などを加速する方針だ。
インタビュー・IT×車つなぎ優位性/社長・林新之助氏
ソフト開発力の強化や事業構造改革など、次世代成長に向けどう陣頭指揮を執るのか。20日に就任した林新之助社長に聞いた。(編集委員・政年佐貴恵)
―ソフト分野に長く携わってきました。
「1970年代から積み上げた車載ソフトの知見は、十分に生かせる。車は安全性を求められることがITとの大きな違い。機能安全から世界の安全基準への対応まで、全てのノウハウを持つ点は強みだ。また世界中の完成車メーカーと開発経験がある。顧客をまたいだソフトの標準化や、IT業界と車業界をつなぐことで、優位性を出していきたい」
―半導体事業の見通しは。
「コア領域の一つとして非常に重要だ。車載半導体の開発と、半導体メーカーとの密な連携による調達力を強化する。半導体需要はしばらく飽和しないだろう。市場成長と同等か、それ以上で伸ばしていく。(出資など)外部との取り組みも案件があれば実施する」
―事業ポートフォリオ変革の進め方は。
「5―10年で内燃機関がなくなるわけではない。グローバルサウスなども考慮すると、20年、30年のスパンだ。市場ごとに求められるパワートレーン(駆動装置)に合わせて供給責任を果たしつつ、互いの強みを生かせる形で事業譲渡などを考えていく。ただし自らのポートフォリオ転換は早め早めに実行する」
―水平分業化など業界構造が変わる中、デンソーの立ち位置は。
「EV化の進度など、車メーカーによっても戦略はさまざま。多様なパワトレへの対応ももちろんだが、例えば電池管理システム全体や、電子制御ユニット(ECU)の中の半導体など、必要とされるケースも異なる。どのケースにもマルチパスウェイで応えられるティア1(1次取引先)であるべきで、品ぞろえも蓄えてきたと自信を持っている。また業界や顧客間の架け橋として、調和する役割を果たしたい」
―「調和力」を経営のキーワードに掲げています。
「調整とか同調ではなく『和して同ぜず』が理想だ。共通のゴールはしっかり共有した上で、個性を発揮し、妥協せずに互いを生かし合うことが重要。変化の時代を生き抜くためにも、自ら変化を作り出すことが私に求められているのだろう。そのためにも社員一人ひとりの個性を大切にし、働きがいや生きがいを果たせる会社にすることを意識している」
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