「ウォシュレット」武器に米の業績拡大狙う。TOTOが海外重視を鮮明
TOTOは2030年度までの長期経営計画「新共通価値創造戦略TOTOWILL2030」を掲げ、海外を重視する姿勢を鮮明にしている。第1段階の21―23年度「ステージ1」を終え、24年度から「ステージ2」に移行した。海外では中国で新築からリフォームに主戦場を変え、米国で温水洗浄便座「ウォシュレット」を武器に業績拡大を狙う。差別化した技術や製品、サービスを各国のニーズに合わせて展開し、地域の生活文化を変えるような価値の提供を目指す。(田中薫)
【注目】国内、収益体制変革で堅調
TOTOは1917年に東洋陶器として創立。国産初の腰掛け式水洗便器やユニットバスを開発し、ウォシュレットや防汚技術「セフィオンテクト」などの独自商品・技術でも広く知られる。現在はトイレ、キッチン、洗面化粧台、バスの水回りを手がける住宅設備機器事業と、半導体製造装置向けセラミック部品を製造する新領域事業を展開する。
国内では人口減少に伴う新築住宅需要の落ち込みへの対応のためリフォームを主とする収益体制への変革を進めてきた。22年度の日本の住設事業売上高ではリフォームの割合が70%となり、営業利益は95%を占める。足元ではコロナ禍に高まった住宅リフォーム需要の反動があるが、新商品の拡販効果もあり、国内市場は堅調だ。
今後業績を大きく伸ばすには、いまだに売上高比率29%(22年度実績)にとどまっている海外住設事業をいかに拡大させるかがカギだ。21年に発表した長期計画では海外展開を加速し、30年度に海外事業売上高比率50%以上に拡大させ、全体の売上高9000億円以上(同7012億円)に引き上げる目標を掲げている。
その海外事業で最も大きい市場は中国。全体売上高の12%を占める主要市場に位置付けられている。高価格帯のブランドとして浸透し、衛生陶器、ウォシュレット、水栓金具などを販売している。だが、中国は日本と同じく少子高齢化が課題にある。また23年度は中国の不動産不況の影響を受け、新築需要が低迷しており、23年10月には通期見通しを下方修正した。
対照的に好調なのが米国市場だ。コロナ禍の衛生意識の高まりや紙不足を受けてウォシュレットが再注目されている。中古住宅流通が低調で住宅関連の市況は好調とは言い難い中でも、ウォシュレットの拡販効果を受けて23年度の米州事業の通期見通しを前年度比10%増に上方修正した。
一方、半導体製造装置向け部品を手がける新領域事業もシリコンサイクルの盛り上がりとともに急成長が見込まれる。静電チャックを製造する中津工場(大分県中津市)では次の需要期に向け、住設事業に先行して製造現場の自動化・無人化を進めており、効率化を図っている。
【展望】中国でリフォーム拡大、付加価値訴求
清田徳明社長はステージ2を「起承転結の“承・転”のステージ」と表現し、30年度の目標達成に向けた重要な時期と位置付ける。 中国では日本と同様にリフォームを主とした事業への切り替えを始める。新築を中心とする場合、主な取引先はマンションデベロッパーだが、リフォームの場合、最終消費者を見据え、内装業者や販売店、元請け工事店との接点を増やさなければいけない。日本で展開しているTOTOが認定したリフォーム施工店の組織「TOTOリモデルクラブ」のように中国全体に張り巡らす販売店ネットワークの構築も検討する。
最終消費者への価値訴求の強化も必要となる。リフォームの場合、新築よりも1領域に予算を多く割けるため、1戸当たりの利益率は増加が見込める。付加価値の高い商品を拡販するため、ショールームの刷新や案内員の教育も進める。また海外の業績はリフォームと新築で区別していない。そのため今後、業績の方法の見直しも行い、リフォームを主とする体制に整える。
米国は好調なウォシュレットのさらなる拡販に乗り出す。実購入できる店舗数を既存の1・5倍に増やし、電子商取引(EC)の販売店も増やす。ショールームの展示もウォシュレットを前面に押し出したものに順次切り替える。ステージ2ではステージ1における販売台数の2倍の販売を目指す。
営業利益率10%以上の達成には効率化も並行して進める必要がある。設計ではスーパーコンピューターを用いた水流の研究や産業用コンピューター断層撮影装置(CT)を用いた型の試作工程の短縮などに取り組んでいる。しかし、衛生陶器の材料配合の領域などでは細かな調整が必要で自動化が難しい。まずは先行してスマート化した新領域事業の知見を共有しながら、導入しやすい組み立て工程などから自動化を進めている。ただ清田社長は「技能は当社の重要なノウハウ。残していかなければいけない」とも話す。全世界の従業員で技能を競う選手権なども実施し、職人の育成も続けていく。
TOTOと同じく水回り4領域に事業を展開するLIXILの海外展開の状況は全く異なる。同社は13年に欧州で大手水栓金具メーカーの独グローエを、米で大手水回り機器メーカーのアメリカンスタンダードを買収し、現地に根差した経営を行っている。22年度のLWT(水回り事業)売上収益のうち海外は約54%を占める。TOTOが欧米進出を加速するには、地場のブランドと差別化した製品やサービスにより、ワンブランドとしての価値を訴求していくことが重要となる。
【論点】社長・清田徳明氏「ファン作り、地道に継続」
―ステージ1の手応えは。
「目指すべき30年度に向けて着実に進み出せた。特に海外ではウォシュレットを中心に大きくストレッチ(伸長)していきそうだ。米国事業は節水便器によって確立し、ウォシュレットの伸びはまだまだだったが、コロナ禍で紙不足が叫ばれたことをきっかけに注目され、伸長角度が変化した。今後大いに期待できる。欧州はまだ業績は小さいが、五つ星ホテルに導入が進み、著名な展示会にも出展し、存在感を高めている。世界的なブランドとして発展していくには非常に意味のある市場だ」
―ステージ2をどう位置付けますか。
「ステージ1が“起”であるならば2は“承・転”だ。好調な領域はさらに伸ばし、うまくいかなかった点は変えていく。まず“承”の一つは米国でのウォシュレット展開。ショールームやEコマース・実販売店舗を増やし、購入チャネルの拡大を急ぐ。二つ目は半導体製造装置向けのセラミック部品。今はシリコンサイクルのへこみの時期だが、秋口をめどに回復するとされている。需要回復時に対応できるよう、工場の自動化や設備の増強を進めている」
―“転”は。
「中国事業だ。不動産不況により新築需要が伸びていない。今までは中国の経済成長とともに我々も伸長してきたが、成熟期に差しかかったと認識している。日本と同様に中国にも膨大なストック(既存住宅)がある。そこに当社のリフォーム事業『リモデル』を提案していく」
―今後の目標は。
「日本では創業から107年間事業を続けてきて、当社を知らない人はいないはずだ。海外では現地にない技術を提案し、高級ブランドとしての位置付けをいただいている。このブランド力は何よりの財産であり、今後もつないでいかなければいけない。他社から競争力のある商材が出ればキャッチアップするが、より価値の高い製品を出し続けることでブランドは確立される。そして施工・サービスも含めて『さすが』と言っていただけるようなファン作りを地道に続けることでブランドは維持されるだろう。地場企業ではできないことをして、各国の生活文化を変えていく企業であり続けたい」