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建設機械「ニューノーマル」へ

成長軸は中国変調・偏重からIoTに移るか

IoTで需要掘り起こし


 「日本中に広めるためにも、拠点を増やす」(大橋徹二コマツ社長)―。コマツは情報通信技術(ICT)を活用して建設現場の工程全体を支援する新事業「スマートコンストラクション」の実演拠点の全国展開に乗り出す。

 2015年2月に始めた同事業は、建設機械メーカーの枠を超える挑戦と言える。建機にとどまらず、飛行ロボット(ドローン)による測量、施工計画のシミュレーションなど、施工の前段階の支援にまで事業領域を広げる。施工を自動制御する建機を軸に、各工程でICTを駆使して工期短縮を実現する。

 中国経済の減速で、巨大市場の需要は大幅に減少した。それに伴う資源価格下落で、新興国での鉱山機械需要も低迷する。その対処と並行して、将来の需要掘り起こしを狙って取り組むのが、自動制御建機や新事業だ。

 背景は日本の少子高齢化、人口減少だ。“3K”と称されるほど建設現場の労働環境は過酷で、人手はさらに集まりづらくなる。少ない人手で土木工事を遂行することが必要になるため、自動制御建機が役立つと期待される。さらに、それだけでは土木工事を効率化できないとして立ち上げたのが、スマートコンストラクションだ。

 すでに1000現場以上で導入されたが、当面の目標である年間5000件にはまだ遠い。そこで千葉市内の1カ所しかない実演拠点を、16年中に9カ所に増やす。

 コマツが自動制御建機で先行するが、日立建機も同様の機能を搭載した油圧ショベルを16年以降に発売する。顧客の土木工事にICTを採り入れ、施工を効率化する取り組みも実施している。辻本雄一社長は「大規模工事以外にも適用できれば裾野が広がる」と普及の条件を見通す。

 国土交通省が公共工事へのICT活用を推進する施策「アイ・コンストラクション」を議論するなど、建設現場の人手不足をICTで補う必要性は、社会に浸透するとみられる。

 ただ、コベルコ建機の藤岡純社長が「若者が働きたいと思える環境づくりが先だ。根本的な解決策になると思わない」と指摘するようにICTは魔法の杖(つえ)ではない。建設作業者の労働条件改善などほかの施策も不可欠だ。

 各社はこれまでも顧客の稼働管理システムなど、ICTを積極的に活用して事業を拡大してきた。さらに、建設現場全体のデータを取得するという、モノのインターネット(IoT)の段階に進化した。より高度に、より広い領域になった製品・サービスをどう普及させるか。建機メーカーは新たな課題と向き合う時代に入った。
(文=戸村智幸)
2016年3月24日/25日/28日機械
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
建機業界は世界経済の影響を受けやすく、これまでも多くの浮き沈みを経験してきた。各社のトップは「上がることも下がることもあるのがこの業界」とよく口にする。とはいえ、中国市場の不振について、「これまで経験したことがない」と表現した人もおり、今までにない逆風を受けていることは確かだ。連載で紹介していないが、各社は工場の電力削減、生産改革にも取り組んでいる。自分たちができる範囲のことは着実にしている印象だ。コマツがIoTを駆使したサービス型ビジネスに熱心なのも、建機業界の将来を見据えてのことだ。危機の中でこそ、新たな時代への芽が育つもの。建機業界の明日はそれほど悲観的なものではないだろう。(日刊工業新聞社編集局第一産業部・戸村智幸)

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