ニュースイッチ

統合後の苦難乗り越えたJVCケンウッド、業績好調の背景

統合後の苦難乗り越えたJVCケンウッド、業績好調の背景

ビデオカメラ事業で培った技術をドライブレコーダーの開発に生かした(ミラー型ドライブレコーダー「DRV-EM4800」)

JVCケンウッドの業績が好調に推移している。2023年3月期には中期経営計画の目標を前倒しで達成し、24年3月期から新たな中計が始動した。これまでに市場環境の変化に対応したポートフォリオ転換、コロナ禍でのサプライチェーン(部品供給網)マネジメント改革など痛みを伴う施策を幾度となく打ち、レジリエンス(復元力)を磨いてきた。足元では北米公共安全市場でシェアを伸ばす無線システム事業などが業績をけん引している。(八家宏太)

【注目】“外部の目”重視、企業価値向上

※自社作成

「統合後の苦戦を次々に乗り越えることでレジリエンスを獲得した」―。JVCケンウッドが実施したアナリスト向けアンケートに、こんな回答が寄せられた。同社林和喜常務執行役員は「自分たちでは意識してなかった」と明かす。難しい課題に直面し、乗り越える過程で強さを身に付けてきた。

JVCケンウッドは日本ビクターとケンウッドの統合などを経て08年に発足した。当時、直面したのは主力事業だったテレビやビデオカメラの需要低下など市場の急激な変化だ。BツーC(対消費者)の民生品事業は全体売上高の56%(08年当時)を占めており、ポートフォリオ転換が急務となっていた。不採算事業になったテレビやビデオカメラなどからの撤退・縮小、余剰となった工場や販売拠点の統廃合を断行した。

ポートフォリオ転換の過程では既存技術を生かした。例えばビデオカメラ。そこで培った技術に着目した顧客の意見を参考にし、ドライブレコーダーを開発した。

試行錯誤の時期を経て15年、中計「2020年ビジョン」を策定して発表した。カーナビゲーションシステムやドライブレコーダーからなる「モビリティー&テレマティクス(M&T)」分野を成長のけん引役に位置付けてスタートした。しかし、またもや挫折。計画通りに目標を達成できなかった。

こうした苦い経験をもとに策定されたのが、前倒しての達成となった24年3月期までの中計、続く現行の26年3月期までの中計だ。ポイントは「内向きの視座からの脱却」(林常務執行役員)。外部の目線を重視した企業価値向上策を盛り込み軌道に乗せた。売り上げ構成比の転換も進めてきた。22年にはBツーB(企業間取引)事業の比率が08年と比べ47・5ポイント増の72・2%になった。

新型コロナウイルス感染症拡大の苦境も強さに変えた。半導体供給不足などの影響で材料在庫が増加した経験から、リスク要因を想定したサプライチェーンマネジメント改革を実施した。地政学リスクを考慮した拠点の最適化と並行し、国内工場の自動化などで生産性向上も図るなど、足もとの製品の安定供給体制の強化につなげた。

【展開】公共安全無線、北米で伸長

トライバンド対応無線機「VP8000」の使用時のイメージ

「お客さまに長年愛されているブランドと認識している」―。アマチュア無線家でもある江口祥一郎JVCケンウッド社長は、アマチュア無線機の展示会「ハムフェア」に毎年足を運ぶ。無線機事業は祖業の一つ。自社製品も並ぶ会場でケンウッドの前身トリオ時代からのファンの思いを肌で感じる。

近年、同社ではセーフティー&セキュリティー(S&S)分野の無線システム事業が、好調な業績を象徴する存在になりつつある。同分野の売上高全体に占める比率は22%(23年3月期)で、利益率が高い堅調な事業として同社を支えている。

同社の推計によると、全世界の民間向け無線市場のシェアで7%を占め、2位に位置する(23年)。北米市場では公共安全無線の受注など快進撃が続く。米国の同市場でのシェアは3位となっており、一定の地位を確立している。

※自社作成

米国での好調の背景にあるのは、三つの周波数帯域と二つのデジタル無線規格を1台でカバーするトライバンド対応無線機「VP8000」などの高機能新製品だ。VP8000は1台で警察や消防、学校セキュリティーとの緊急時の相互通信が可能で、北米公共安全市場での成長を加速している。

北米の公共安全市場では、州や郡などの自治体で危機管理需要が伸長している。またデジタル無線への切り替えタイミングを控える自治体も多いことから、今後も需要の伸長が期待されており、積極的な受注活動を展開する方針だ。

無線システム事業の強さの源泉になっているのが、18年にスタートした「テセウス活動」だ。現在では全社の成長をけん引する同事業だが、19年3月期は営業利益率が0・2%まで低迷した。販売管理費などのマネジメント不足が響いた。

こうした失敗の反省から立ち上げた同活動では、コスト管理を徹底する専門チームを組成し、1―2週間の期間で数値目標を設定。達成に向け地道な業務改善を繰り返す。社員からは「苦しい」という声が上がるというが、「カルチャーとなり内部の強みになっている」と無線システム事業部事業企画部の千葉岳洋部長は語る。

こうした足腰の強さが堅調な利益率を支えている。今後、無線システムの需要増に着実に対応していくため、自動化ラインの拡充など生産増強も進める。これらの取り組みを通じ、北米公共安全市場での売上高は現在比約4倍の4億ドル(605億円)、シェアは同約7ポイント増の10%を目指す。

【論点】社長・江口祥一郎氏「アジア・途上国など開拓」

社長・江口祥一郎氏

―足もとの業績と今後の見通しは。

「24年3月期は利益率が改善した。S&S分野は季節差が標準化され、1年間を通して堅調に推移し、収益への貢献が大きい。M&T分野はウクライナ戦争や完成車メーカーの新車販売の遅れなどの影響があるが、全体としては回復基調にある。海外完成車メーカー向けの供給は米ダイムラー・トラック・ノース・アメリカへの供給が決まった。海外完成車メーカーへの供給拡大をけん引する第一手になる」

―好調な無線システム事業をどのように強化しますか。

「無線端末のラインアップを強化する。低・中価格帯など競合他社にない商品を公共安全分野、民間市場分野それぞれで増やす。一方、アジア、オセアニアではまだシェアが低いので、人的資本を投下していきたい。発展途上国のインフラ開発など成長の余地がある地域でも拡販していきたい」

―自動車業界の電動化、将来的な自動運転化への対応は。

「自動運転や電動化が進んでも、車載カメラやモジュールはなくならない。重要なのは、こういった市場が存在するところに製品を供給することだ。海外では厳しい競争や為替変動、地政学リスクもあるが、現地発のニーズを生かして製品開発を進めていく」

―投資の方向性は。

「単年でなく、3年間でどのような投資案件にするのかが重要だ。1000億円の枠は変わらないが、S&S分野への配分を増やす。M&T分野などの余剰資本を人も含めて投資する。成長戦略投資は最大350億円の規模感になる。投資は1000億円以内が望ましいが、M&A(合併・買収)など必要であれば枠を超えても進める」

―夏には開発創造拠点「バリュー・クリエーション・スクエア(仮称)」が完成予定です。

「分野別だった拠点を一体化して一元化できるのは、意義がある。働き方改革も含めて未来志向の社風にしたい。現在、全社員の所属オフィスへの出社率はコロナ禍前と比べて6―7割。サテライトオフィスやフリーアドレス化などコロナ禍で培ってきた働き方の創意工夫を生かし、働く環境の整備を進めていく」

日刊工業新聞 2024年03月27日

編集部のおすすめ