反スパイ法・景気減速…経済界が中国リスクに一段と警戒感
経済界は反スパイ法や景気減速など中国リスクへの警戒感を一段と強めている。アステラス製薬の日本人男性がスパイ容疑で逮捕されるなど、隣国の事業環境は急速に悪化。米中対立により生産拠点としての魅力も漸減しており、日本企業による“脱中国”の動きは加速しそうだ。それがまた外資系企業の脱中国に神経をとがらす当局の統制強化を招く悪循環となり、ジレンマが続く。(編集委員・鈴木岳志)
「現在においても両国間には困難があるが、今こそ対話を通じて相互理解を増進し、これまでと同様に粘り強く、そして着実に課題を解決していくことが強く求められている」。経団連の十倉雅和会長は23日に都内で開いた日中平和友好条約45周年を祝う会でそうあいさつした。約1000人が参加した会場は祝賀ムードの中にも少なからず緊張感が漂っていた。
アステラスの日本人社員以外にも、日本の非鉄専門商社でレアメタル(希少金属)を扱う中国人社員が中国当局に拘束されたことが22日明らかになった。米中対立などの政治情勢のはざまで揺れる経済界は、中国事業への不安が過去最高水準に達している。
アステラス社員は3月に拘束されて以来、具体的にどのような行為が問題だったかは不明なままだ。製薬業界の関係者は「当局が日本企業の脱中国を警戒し、見せしめとして拘束された可能性がある」と打ち明ける。「製薬会社は他の業種と比べて中国事業の投資縮小・撤退の動きが遅く、最近ようやく着手したばかりだ。そこを狙い撃ちされたのではないか」と推測する。
地政学リスクに加えて、中国政府による有形無形の支援を受けた現地企業の台頭も、日本企業の脱中国の背中を押す。最近も、三菱自動車が中国での自動車生産から撤退し、JVCケンウッドも上海の工場を地元企業に譲渡することを決めた。これら以外に、表沙汰になっていない“ステルス脱中国”が業種を問わず無数に進んでいるとみられる。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は「中国に行って突然捕まるのではないかと心配になる。今の中国を考えると、新しい何かをやろうという雰囲気を作るのはすごく難しい」と投資先としての正当性に疑問を呈した。「(当局は)アンチスパイ法の定義を早くしてほしい。これは大丈夫、ここはダメという範囲を明確にしなければならない」と訴える。
一方で、サプライチェーン(供給網)の見直しは一足飛びではいかない面もある。レアメタルが分かりやすいが、医薬品や素材、食品などでも中国依存度が高い原材料は多い。サントリーホールディングス社長を務める新浪代表幹事は「ビタミンCの90%以上は中国に頼っている。それをベトナムでつくると言っても、コストは中国が圧倒的に安い。中国は問題があるからと、顧客に値上げをお願いしても簡単には受け入れられない」と厳しい現実を語る。
中国事業のデリスキング(リスク低減)は日本の経済界、特に製造業にとって目下の最重要課題の一つとなる。2024年に控える米国大統領選挙の結果次第では、米中対立のさらなる激化に起因して困難がより大きくなるかもしれない。
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