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次世代太陽電池「ペロブスカイト」の特許戦略、材料のポートフォリオさらに強く

ペロブスカイト太陽電池-勝ち筋を探る #4 SK弁理士法人(SKIP) 代表社員 奥野彰彦弁理士

国内外で事業化を目指す動きが活発化する「ペロブスカイト太陽電池」。その特許出願動向と、市場で勝ち抜くために求められる特許戦略について、SK弁理士法人(SKIP) 代表社員の奥野彰彦弁理士に聞いた。(聞き手・葭本隆太)

-ペロブスカイト太陽電池に関わる特許出願の現状は。
【新刊】素材技術で産業化に挑む-ペロブスカイト太陽電池  海外を含めた特許ポートフォリオは、日本が一定程度の優位性を保っています。ただ、足元では中国が資金と人的資本の大きさを生かし、出願件数で先頭を走っています。とはいえ、まだ国内に閉じこもり気味のポートフォリオになっています。

-特許出願している具体的な研究成果の内容について国別の動向は。
 日本は(ペロブスカイト太陽電池の安定性や耐久性などに資する)材料関係の研究が強いです。一方、(既存のシリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層する)タンデム型は非常に弱い。中国や欧州、米国がタンデム型を有望視して研究に注力しているからか、それとも単体型ペロブスカイト太陽電池の特許ポートフォリオは日本がとても強いため、ホワイトスペースを探った結果としてタンデム型に商機を見出そうとした結果なのかは分かりません。しかし今後、タンデム型が技術標準になると厳しい局面があるかもしれません。

-中国による特許出願の急増は政府施策の影響も大きいとも聞きます。
 中国は政府が数兆円レベルの補助金を配り、それを受け取って利益を得ようとする特許事務所が出てきた関係で、5年ほど前までは、低品質な出願が組成乱造されていました。(ペロブスカイト太陽電池の特許出願動向についても2018年ころまでは)その影響が一定程度あるでしょう。しかしその後、厳しい指導が入り、外国特許出願の支援を増やしました。そのため、足元では海外での出願が増えていますし、品質も極端に低いことはありません。

-そう考えると、やはり中国の追い上げ追い越しは脅威と見るべきでしょうか。
 慌てるべきでしょう。通常は学術論文を発表した数年後に特許出願があります。先行指標となる学術論文の発表では、中国の伸びが著しいですから。

-企業はどのように慌てるべきでしょうか。
 技術を最終製品に落とし込み、マーケットを作る作業を急ぐべきです。日本は技術力が優れていますし、特許制度や日本企業の知財戦略に問題があって負けることはないでしょう。一方、これまでも基礎研究では頑張っても商品化で負けたケースは多いです。いわゆる「死の谷」や「ダーウィンの海」を越えて、基礎研究を産業につなげる部分が足りないと個人的に思います。そのあたりは、中国や米国は上手で、大きな予算や人員を割いて強引に短期間でやりきる力があります。そこに追い抜かれないようにしなくてはなりません。

-迅速な投資判断が必要になると。
 もちろんそれが期待されますし、製品化を目指すメーカーに頑張って欲しいです。一方、スタートアップの育成を促す考え方もあります。

-具体的には。
 日本の大企業は新規事業に失敗すると、その損失が大きいため、投資判断がなかかできません。新規事業のために優秀な専門人材を好待遇で集めて、仮に失敗した場合、その人件費負担などがプロジェクト終了後も重くのしかかります。終身雇用制度のため、解雇できないからです。その点、中国や米国は異なり、解雇ができます。

一方、スタートアップと組んで新規事業を立ち上げれば、もし失敗しても、そこと縁を切って損切りするという選択肢が、大企業はできます。もちろんプロジェクト失敗による損失は出ますが、それ以上の費用負担は発生しません。上手くいけば、M&Aで取り込めばよいのです。

(ペロブスカイト太陽電池の分野では)京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズが事業化に向けて多くの企業から出資を集めていると聞き、よい形ではないかと思い、動向を注目しています。

また、岸田政権は10兆円の予算を計上して、ディープテック系スタートアップの育成や事業会社との連携を支援する取り組みを23年に始めましたが、大企業の硬直化した人事システムを残しながら、新しい産業を生み出す政策として方向性は正しいように思います。

-今後の特許戦略で重要なポイントは。
 材料・部品領域のポートフォリオを強化することに尽きます。マーケットの支配力を考えると、圧倒的に材料・部品の影響が大きいですから。特許戦略としては、性能を高める材料・部品の研究開発を進め、日本や中国、米国、欧州の主要国で特許を押さえていくべきです。完成品はそれを買ってきて分解すれば、どのような部品や材料を使えばよいかが分かるため、それらを仕入れて組み立てれば真似できます。一方、材料はどのように作られているかはわかりにくく、真似が難しいものです。

仮に完成品は中国メーカーに負けたとしても、部品と材料を抑えて完成品メーカーを使いこなしながら材料供給側として利益を得る形ができれば、決して悪い話ではないのではないでしょうか。

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ペロブスカイト太陽電池-勝ち筋を探る
ペロブスカイト太陽電池-勝ち筋を探る
次世代太陽電池の本命と期待される日本発の「ペロブスカイト太陽電池」。国内外で事業化を目指す研究開発が活発になっています。この競争を日本企業は勝ち抜けるか。識者に聞きます。

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