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次世代太陽電池「ペロブスカイト」…日本企業の3つの勝ち筋

ペロブスカイト太陽電池-勝ち筋を探る #3 富士経済エネルギーシステム事業部・川合洋平ミドルエキスパート

国内外で事業化を目指す動きが活発化する「ペロブスカイト太陽電池」。日本企業がその市場を勝ち抜くために必要な取り組みは何か。ペロブスカイト太陽電池市場の予測などを行っている富士経済エネルギーシステム事業部の川合洋平ミドルエキスパートに聞いた。(聞き手・葭本隆太)

-ペロブスカイト太陽電池の市場の現状や展望は。
 中国を中心に新興企業が増えているほか、既存の結晶シリコン太陽電池メーカーの大手が研究開発を表明し始めています。中国のジンコソーラーや韓国のハンファQセルズなどです。結晶シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を積層したタンデム型の投入に向けた開発計画をIR情報などで発表しています。各社のスケジュールを見ると、量産化・商用化は2030年代に盛んになるでしょう。

今年5月をメドに最新の市場予測を発表する予定ですが、(各社の研究開発の動きが顕在化してきたため)23年3月に発表した前回予測の「2035年に世界で1兆円」を上方修正する可能性があります。

-市場の中心は「タンデム型」と予想されています。
 タンデムは(メガソーラーなどにおける)シリコンの置き換えとして市場規模が大きいです。それに(既存の太陽電池市場のシェアを握っている)シリコン系メーカーの動きは市場に大きな影響を与えます。シリコン系メーカーにとってタンデムは自社の生産技術が生かせます。過去の太陽電池市場の経緯を見ると、シリコン系メーカーが研究開発して高効率化を進めることで、付加価値の高い方向にシフトしてきました。研究開発しなければ汎用化して価格が下がってしまい、利益が出なくなりますから。それは今後も同様です。現在は(これまで主流だった「P型」に比べて高温時の発電量低下が少なく、劣化しにくいといったメリットがある)「N型」と呼ばれる製品が市場を席巻しており、次は(さらに変換効率の向上が見込まれる)「ヘテロ接合型」、さらにその先の有望な技術としてペロブスカイトタンデムを位置付けています。

一方、ペロブスカイト単体を用いて、外壁や窓と一体化させるBIPVやIoT(モノのインターネット)端末向けは、1カ所当たりの搭載量が決して大きくありません。

-動向を注視すべきメーカーはやはり中国系でしょうか。
 中国メーカーは、具体的な投資の動きが明確に出てきています。日本円で数十億円、数百億円を投資し、生産技術を検証するパイロットラインを100メガワット(MW)の規模で構築しようとしています。さらに3年後には1ギガワット(GW)、5年後に10GWの量産体制といった計画が散見されます。日本企業からは量産時の具体的な規模感がほとんど聞かれません。(大規模投資によって)生産技術は、トライアンドエラーが進んで習熟し、コスト低下につながります。規模の経済の効果で製造装置や構成部材を含めて価格が下がり、市場競争力は高まります。技術的な完成度がどこまで高まっているかは不透明ですが、動きにダイナミックさがあります。

-日本企業の動きは。
 中国の研究開発は、タンデム型やガラス基板を用いた製品に寄っている印象があるのに対して、日本企業の多くはフィルム基盤の薄くて軽量で折り曲げられる製品の開発に注力しています。壁面や耐荷重の低い屋根など向けで、市場としてはニッチですが、ペロブスカイトの特性を生かした製品になります。経営層は、中国と競合して物量の勝負になりやすいタンデム型を避けて、あえて差別化して高単価で高付加価値な市場を狙っているのかもしれません。

-それは勝ち筋になりますか。
 日本企業の勝ち筋はそれを含め3つ可能性があると考えています。2つ目は最終製品ではなく、フィルムやガラスといった構成材料や製造装置、生産技術などについて中国系を含めた完成品メーカーに供給する形です。もう一つは、ペロブスカイト太陽電池を部材として、タンデム型を製品化するメーカーやBIPVを製品化する建材メーカーなどに供給するものです。実際に、米国のCAELUXというメーカーは、結晶シリコン太陽電池の生産ラインに組み込めるガラス基板のペロブスカイト太陽電池を供給するため、カリフォルニアで100MWの量産工場を作るべく準備を進めています。同様の方法は日本企業が生き残る道の一つかもしれません。

勝者は必ずしも最終製品メーカーだけではありません。部材・生産技術、製造技術を含めてサプライチェーンのどこで勝つかを意識すべきです。

-日本企業は技術に優位性があると考えてよいのでしょうか。
 確かに中国メーカーの製品の構成部材には、日本製を使っているケースがありますし、日本の技術に依存しているケースはあります。それに、フィルム基板のペロブスカイト太陽電池について(切れ目なく生産するため生産効率が高い)ロール・ツー・ロール方式において、低コストかつ高い歩留まりの生産技術の確立に成功したという海外メーカーは聞きません。そうした生産技術をいち早く確立し、優位性を持てれば、(フィルム基板の生産を担う)市場を占有できるかもしれません。

一方で、シリコン太陽電池の市場がそうであったように、技術はいずれ追いつかれる可能性があります。中国は特許出願の件数も増えていますし、優位性をいつまで維持できるか、やはり(大規模投資を表明している)中国メーカーの動きは警戒すべきでしょう。

-政府の支援の在り方は。
 企業のホップ・ステップ・ジャンプをいかに促すかです。現在は(グリーンイノベーション基金で)生産技術の開発を支援していますが、その次は需要の創造です。政府としてペロブスカイト太陽電池を含めた新型太陽電池の導入目標を示し、FIT(フィット)やFIP(フィップ)で買い取り価格を保証したり、公共建築物への導入を促したりといった仕組みが必要です。それがなければ企業はリスクを取って設備投資ができません。そうして生産技術が確立してコスト低減が進み、海外に進出する流れが理想的です。

-企業に求められることは。
 最終製品の在り方を詰めると同時に、海外の需要開拓を率先して進めなければいけません。(国際競争においては、)最後はGW規模の勝負になります。どうしても物量の問題は避けられません。日本国内に留まっていてはその需要が掴めません。世界に出る覚悟を決める必要があります。それがなければ、先々の勝負で太刀打ちできなくなります。

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