ニュースイッチ

次世代半導体に照準、ICパッケージトップメーカー・イビデンの成長戦略

次世代半導体に照準、ICパッケージトップメーカー・イビデンの成長戦略

市場拡大を見込み、生産強化に動くイビデンのICパッケージ

ICパッケージは半導体チップを保護しつつ一体化し、外部との接続を担う電子部品だ。放熱性、プリント基板への実装性の良しあしも左右する。半導体チップの微細化が難易度を増す中、増大するデジタルデータの高速処理でICパッケージの高性能化が注目されている。イビデンは世界の同市場で5割以上のシェアを持つ。経営資源を集中し、将来を見据え要素技術や生産技術の開発を加速している。(編集委員・村国哲也)

【注目】サーバー用、設備大型増強

イビデンの歴史は挑戦と主役交代の歴史だ。1912年に水力発電で創業。その後、カーバイドや炭素製品、セラミックス製品、建材・建設などの新事業に経営の軸足を移してきた。70年代にはメラミン化粧板の技術を元にプリント配線板(PWB)市場に参入。80年代にはICパッケージ分野に進出した。

電子事業の構造転換も激しい。2014年度はスマートフォン用などのプリント配線板が電子事業の売上高の2割以上を占め、ICパッケージもパソコン用、スマホ・タブレット用が中心だった。それが23年3月にPWBから撤退。専業となったICパッケージ製品にスマホ用はなく、サーバー用の売り上げがパソコン用に迫る。

22年12月に着工した新工場の大野事業場

ここ数年はサーバー用の大型投資も続けている。21年度までに約1300億円をかけ大垣中央事業場(岐阜県大垣市)を増強。超小型タイプ(CSP)の工場だった河間事業場(同)は23年12月までにサーバー用への改築をほぼ終えた。この当初の投資予定額は設備を含め1800億円。22年12月には新工場の大野事業場(岐阜県大野町)も着工した。

しかし世界的なIT市場の不調を受け、河間の稼働時期を当初計画の24年度中から26年度に延期。「需要の回復は、23年度初めに予想した24年度頭から下期、あるいは25年度に延びる」と青木武志社長は説明する。河間で生産予定だった製品は当面、大垣中央などの生産余力でカバーできると判断。全社のICパッケージの生産能力を25年度に19年度比で2・1倍にする計画にブレーキを踏んだ。

イビデンの電子事業の売上高と営業利益率

しかし青木社長の表情に暗さはない。汎用サーバーの不調を尻目に、人工知能(AI)サーバーの市場が拡大中だからだ。「ハイエンドの生成AIサーバー用ICパッケージはほぼ100%を当社が受注し寡占状態」と青木社長は明かす。

このため多様なICパッケージを生産する予定の大野は計画通り25年度に稼働する。敷地面積15万平方メートルと同社の既存7工場を上回る国内最大規模の工場で、AIサーバー用ICパッケージの専用ラインも複数導入し基盤をさらに強化する。工程によっては河間と大野で共通する設備もあり、河間向けだった設備の一部は、先に大野に導入する。

【展開】AI向け獲得へ3D技術強化

イビデンは、ICパッケージ市場で自社が製品を供給するパソコン用とサーバー用の分野が、27年には22年比で40%拡大すると予想し矢継ぎ早に工場を増強・新設している。23年度は連結売上高予想3800億円に対し設備投資1900億円を計画する。

競合他社も増産に動く。高性能パソコン・サーバー用のフリップチップ(FC)パッケージで世界シェア約17%(日刊工業新聞推定)の新光電気工業は、新工場の千曲工場(長野県千曲市)を24年度下期に稼働する計画だ。投資額は1400億円で、超微細配線層とビルドアップ基板を一体化した自社開発のICパッケージを生産する。オーストリアのAT&Sもマレーシアで高性能ICパッケージ用の新工場を約2660億円かけて建設中で24年10―12月に稼働する計画だ。

サーバー用市場は変化しており、柔軟でスピードある対応も求められる。イビデンが27年までに約40%成長すると予測する関連分野のうち、パソコン用は微減で汎用サーバー用は約30%増加する。成長を引っ張るのがAIサーバー用だ。22年実績ではゼロに近いが、今後急拡大し、27年にはサーバー用全体の3割近くを占めるまでになると同社はみる。

サーバー用ICパッケージのイビデンの世界シェアは50%を超える

AIサーバー用ICパッケージの基本製法は汎用サーバー用と「技術的には同じ」(青木社長)という。ただしAIサーバー用半導体チップは演算処理量が増大する。イビデンは次世代ICパッケージの関連技術開発も強化している。

テーマの一つが、3次元(3D)パッケージへの対応だ。中央演算処理装置(CPU)やメモリー、周辺デバイスなどの複数の半導体チップを一つのパッケージに3次元方向に高密度に積層する。台湾積体電路製造(TSMC)が主導するアライアンスにも参加。配線の自動化なども進め生産性を10倍にする目標も掲げる。

半導体チップメーカーの業界地図も揺れている。汎用サーバー向けの半導体チップで高シェアを誇ってきたのがCPUの雄、米インテルだ。しかしAIサーバーでは機械学習の膨大な演算が必要で、画像処理半導体(GPU)が有利。GPUを得意とする米エヌビディアがAIサーバー市場を席巻している。

そのエヌビディアから生産を受託するのがTSMCだ。インテルや米AMDはAIサーバー用で巻き返しを期す。イビデンをはじめICパッケージメーカーは、半導体メーカー各社への対応力が問われる。

【論点】社長・青木武志氏「『次世代半導体』に照準」

社長・青木武志氏

―ICパッケージの需要回復時期の予想を24年度頭から24年度後半以降に改めました。

「コロナ禍で伸びたパソコン需要の反動が長引いている。サーバー用は米国の景気が悪くデータセンター(DC)の大口ユーザーが投資を控えている。ただし中長期での需要のベースはあると思う」

―AIサーバー用市場が拡大しています。

「サーバー購入を検討する顧客の関心が、データをためるだけの汎用サーバーから、分析などで付加価値を高めるAIサーバーに急速に移り始めた。現在はAIチップが品薄。その供給力が追いつけばAIサーバーの需要はさらに増える」

―サーバー用ICパッケージでシェアが高い理由は。

「多層化したICパッケージは反ると断線する。当社製は半導体チップ実装後の歩留まりが非常に高い。多様な技術を長年蓄積し総合力がある。さらに顧客に密着し開発ロードマップを共有し、それに沿って要素技術を開発。新工場を作り、試作をし、現場に生産技術を蓄えている」

―工場で取り組んでいることは。

「一生懸命やっているのは作業の標準化。デジタルツールなども活用し、共通する基本技術を教え込む。一方、新工場に導入する最先端技術は、既存設備の問題点を熟知するベテラン技能者も加え開発チームを組み、製品設計やライン構築に反映する。新工場の作業者も1年以上前から異動させ準備をする」

―品質管理や効率化で重視することは。

「求心力ではなく現場一人ひとりの『遠心力』が大事。QC(品質管理)活動では外部の大会で優秀な成績を残している。TPM(全員参加の生産保全活動)や事務部門の独自活動『IWI』に加え、デジタル変革(DX)などを生かす新たな活動も始めた。生産データをAI解析し予防保全や品質向上をする手法を進化させる」

―投資や開発の今後の展開は。

「河間と大野の両事業場で大型の投資は一段落。ボリュームゾーンのICパッケージをやるつもりはなく、(ハイエンドの)次世代半導体向けを開発する。3Dパッケージ、ガラス基板、光デバイスなど要素技術の開発課題は多い。社外との連携により外の知見も活用していく」

日刊工業新聞 2024年1月23日

編集部のおすすめ