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次世代バスの実証・運用相次ぐ…〝王国〟福岡の多彩さ

次世代バスの実証・運用相次ぐ…〝王国〟福岡の多彩さ

福岡市が九大などと構成する協議会は、福岡市東区で自動運転対応の小型バスの行動実証を実施した。実証車両となったミカはボードリーが提供した

域内を走る台数の多さから“バス王国”とも称される福岡。県内では自動運転燃料電池(FC)バスといった、先進的な技術を用いた次世代バスの実証や運用が相次ぐ。バス事業者のみならず、異業種や行政、大学なども参画し多彩さをみせる。(西部・三苫能徳)

自動運転雨天などリアル条件で運行

福岡には、国内最大規模となる約2400台のバスをグループで保有する西日本鉄道が本拠地を置く。福岡市など福岡地区では約1700台を擁し、都心でバスが連なる光景は名物といえる。生活密着度の高さもバス王国と呼ばれるゆえんだ。

西日本鉄道は福岡県内で完全自動運転バスの運行を目指す(北九州空港周辺での自動運転実証)

西鉄はリーディング企業として次世代バスの開発に力を入れる。自動運転バスの開発では、福岡県内での完全自動運転の実用化を見据える。

実用化の候補地の一つが福岡空港の国内線・国際線の両旅客ターミナルを結ぶ空港内の閉鎖空間だ。2023年夏に三菱商事いすゞ自動車などと3次元マップと高性能センサー「LiDAR(ライダー)」を用いた自動運転「レベル2(部分運転自動化)」の走行を実証した。22年も同ルートで実証したが、今回は雨天走行など実運行に近い環境を試した。

公道ルートとして実現を見込むのが、北九州空港とJR朽網駅(北九州市小倉南区)を結ぶ区間だ。福岡空港での実証と同じ車体を使い、23年12月に北九州空港周辺で実証した。

北九州では北九州市や九州工業大学、YEデジタルといった地域の産学官が参画。初日から風雨に見舞われたが夏の実証成果もあり、走りきった。同市の武内和久市長は試乗を終えて「最初はドキドキしたがカーブもスムーズに曲がった」としており、快適さを感じたようだ。

※自社作成

西鉄が運転自動化を進める背景には、深刻な運転士の不足と高齢化がある。西鉄に所属するバス運転士の年齢構成は50―54歳を頂点に山型を示す。うち約6割が50歳以上で、20―30代が極端に少ない状況にある。

待遇改善や採用活動の拡大などによる乗員確保、平均年齢引き下げの対策も講じている。高校生を新卒採用し、大型2種免許の取得可能年齢に達するまでバスセンターなどで勤務する「養成運転士」制度もその一つだ。

西鉄では特定条件下における完全自動運転となる「レベル4」を技術的に確立した段階でも無人運転にはしないことを想定する。乗客対応や急な豪雨時などに運転士は不可欠と考えるためだ。

西鉄の日高悟未来モビリティ部長は「シニアでも運転しやすくなり、乗務期間が長くできる。ドライバー確保につながる」として、自動運転の実現に向けて実証を重ねる。

23年11月、福岡市東区に自動運転レベル4対応の小型バスが登場した。福岡市が九州大学などと構成する協議会の主催による走行実証だ。ソフトバンク傘下のBOLDLY(ボードリー、東京都港区)が協力し、エストニアのオーブテック製車両「MiCa(ミカ)」を提供。自動運転レベル2で実証した。

ボードリーの佐治友基社長はミカの「公道初走行は福岡と決めていた」と力を込める。実用化に向けても、国家戦略特区で福岡市が設けた仕組みを通じて「技術やルールなど改善を国に求めていけるのでは」と実証環境を評価する。福岡発で全国的な自動運転推進に向けた環境改善につなげられると期待をかける。

FCバス水素燃料、身近な社会に

九電などのFC大型バスは内外装デザインで乗客に水素社会をアピール

カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の機運が高まる中、福岡ではエネルギー面でも次世代バスが快走する。

九州電力と九州大学は福岡市西区で、トヨタ自動車製の大型FCバス「SORA(ソラ)」を走らせる。昭和自動車(佐賀県唐津市)が一般路線バスとして運行し、キャンパスと最寄り駅を結ぶ路線を往復する。

水素燃料は、先進的な水素研究が進む九大伊都キャンパス(福岡市西区)内のステーションで水の電気分解により製造、充填する。九電の独自エネルギーマネジメントシステムを用いて、再生可能エネルギーの余剰電力を積極的に活用する。

九大の石橋達朗総長は「水素の社会実装が身近になり、地域社会に未来を感じてほしい」と期待する。25年度まで実証運行する。

福岡県添田町・東峰村、大分県日田市を結ぶJR日田彦山線バス高速輸送システム(BRT)でもFCバスが活躍中だ。トヨタ製小型バスを改造した「FCコースター」をJR九州が運行する。

トヨタ系のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区)と福岡県の連携事業の一環。山間部の片道約40キロメートルのルートを走り、アップダウンのある山道走行や燃料消費、遠隔地での燃料補給などを実証する。

中嶋裕樹CJPT社長は「日々改善を続ける。乗客と一緒に(バスを)鍛えてもらい、よりよい未来につなげたい」と意気込む。

EVバス脱炭素解決の“即効薬”

西鉄の「レトロフィット電気バス」のバッテリー

普及に時間がかかるFCバスに対し、足元の脱炭素の解決策として西鉄は「レトロフィット電気バス」の導入を進める。電動ユニットなどを後付けすることで、ディーゼル駆動の大型バスをバッテリー式電気自動車(EV)に転換した車両だ。

住友商事出資の台湾大手電気バスメーカー・華徳動能科技(RAC)と協業。西鉄子会社でバスの改造を手がける西鉄車体技術(佐賀県基山町)が技術指導を受けて製造する。

西鉄は年30台ほどの導入を続けて、30年度までに累計約260台を転換する考えだ。内製1号車の改造コストは2700万円。実績を重ねることで製造コストを低減し、全国のバスメーカーに向けた供給も見据える。

このほか福岡県内にはEVバスメーカーのEVモーターズ・ジャパン(北九州市若松区)があり、27年度までに北九州市内で年産1500台のEVバスを生産する見込みだ。

多様なプレーヤーが切磋琢磨(せっさたくま)することが、バス王国の競争力向上につながると期待される。

日刊工業新聞 2024年01月18日

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