最高時速60kmで自動運転…都心部で実証、愛知県の動きが見逃せない理由
名古屋市の都心部にある幹線道路で最高時速60キロメートルで自動運転する実証実験が始まった。周囲の車速に合わせた速度で走ったり空いている車線に移動したりと、交通量の多い道路に溶け込む運転を見せている。時速60キロメートルの自動運転が全国的にも珍しいが、その実験を実現した愛知県の動きも見逃せない。自動運転を公道で実証するには道路上での規制に適合することが欠かせない。技術的な実現が見える今、道路管理者や交通規制当局の役割を持つ都道府県にこそ実用化に向けた後押しが求められている。(名古屋・永原尚大)
まるで人の操作/認識技術が重要、周囲の車と協調し走行
名古屋市の中心部を東西に走る若宮大通。片側4車線で、交通量が多い幹線道路の一つだ。愛知県と自動運転技術を開発するイスラエル・モービルアイの日本法人モービルアイジャパン(東京都港区)などは、自動運転車を走らせる実証実験に取り組んでいる。2月2日までに、事前に定めた経路を約80回走らせる。
「カメラを通じて何を見るか、という認識技術がカギだ」。川原昌太郎モービルアイジャパン社長はこう説明する。今回の実証では、全周を見渡すように11台のカメラを設置した電気自動車(EV)を使う。すでに中国で市販されている車だ。「実証に向けて調整したのは、EVの乗り心地ぐらいではないか」と同社の技術者も胸を張る。実証中の自動運転車に試乗すると、走っている車線が混むと空いている車線に移動したり、前を走る車に合わせて緩やかに減速したりと、人間が運転しているかのような動きを見せた。
「どこよりも自動運転の実証に取り組みやすい場所だ」。今回の実証実験を担当するモービルアイジャパンの下山寛史氏は実証場所としての愛知県をこう評価する。
技術的には実現が見える自動運転だが、国内で実証するには日本の規制と向き合うことが求められる。走行車線を判断する制御がその一例だ。道路交通法に基づけば「常に左端を走る制御が求められる」(自動運転技術の開発者)。障害物を避ける時のみ車線を変える、という制御だ。だが若宮大通などの幹線道路には駐停車している車両が多く、それでは周囲の車と協調した円滑な走行は難しい。
仲介が効果/テストに適した車線走行
ここで力を発揮したのが愛知県だった。県は愛知県警察や運輸局、地元住民への説明などで伴走支援する「あいち自動運転ワンストップセンター」という仕組みを活用。県が事業者との仲介役を担うことで「その時々で最適な走行を実現する手段として左端以外を走ることもある」(県担当者)という理解を各所から得た。実証の走行では、駐停車する車両が多く円滑に走れないと判断すれば他の車線を走り続けていた。
県次世代産業室の中野秀紀室長補佐は「実証実験する事業者と警察などが打ち合わせする際には県が口火を切るなど積極的に支援している」と語る。
県が自動運転の取り組みを支援する背景について、大村秀章愛知県知事は「安全性を検証しながら実用化するのは行政の役割だ」と強調する。今回の取り組みのほか、愛・地球博記念公園(愛知県長久手市)の園内で小型EVバスを無人走行させたり、中部国際空港(同常滑市)から常滑市内の商業施設までを結ぶ定期運行バスで自動運転バスを活用したりしている。
世界的に見れば自動運転の実用化に向けた取り組みは米国や中国、シンガポールなどの海外が先行しており、日本は周回遅れと揶揄(やゆ)される。だが、川原社長は「日本はきっちりやる体質で、着実に進んでいる。今のあり方でいい」と指摘する。その上で「海外の先進事例に日本でも取り組むことが必要だ」と語る。
規制を担う行政が先進事例の実用化を積極的に後押しすることが、日本の社会に適合する自動運転の社会実装を着実に進めることにつながりそうだ。