船との衝突回避を支援…自律運航技術へ発展期待、新システムの全容
商船三井は東京海洋大学など5機関と、他船を避けて航行するための新しい操船支援システムの開発を進めている。周辺の船の位置や速度から、どの角度で何分進めばぶつかるかを算出し、位置関係をモニターで表示。船長の操船判断を補助する。今後、避航ルートの自動生成や将来の自律運航技術への発展が期待される。(梶原洵子)
海上は遠くまで見渡せるうえ、大小さまざまな船があり、目視では位置関係を把握しづらい。例えば、遠く横方向に小さく見えていた船と十数分後にぶつかることもあり得る。現在の衝突の判断には最接近距離(CPA)の予測が使われているが、CPAでは危険度が分かっても、避ける方法が分からないという課題があった。
そこで東京海洋大の今津隼馬名誉教授は、船同士の通信などによって得られる位置や速度データからぶつかる可能性が高い時間や場所の「航行妨害ゾーン(OZT)」をコンピューターで算出することを提案。ぶつかる可能性がある船をいち早く見つけ、OZTを避けるように操船して、衝突を回避するという考え方だ。
この考えをもとに、商船三井など6機関はOZTを用いた操船支援システムの開発で連携しており、完成に近づいてきた。モニターの横軸に北を0度とした時の角度、縦軸に航行時間をとり、衝突する可能性がある角度・時間の一帯をOZTとして表示する。
自船の進む方向とOZTが重なる場合、船長らは表示を参考に舵(かじ)を切る。ぶつかりそうな船が早く分かれば、最適な操作を考える時間を確保できる。
モニター表示を船のブリッジからの視界と一致させた点もこだわりだ。「モニターを見て、何度に舵を切るかという操船指示をしやすくした」(海上技術安全研究所の佐藤圭二主任研究員)。
このほど都内の操船シミュレーターでOZTを用いた避航操船支援の公開実験を行った。商船三井スマートシッピング推進部の上原裕士副部長は「よいものができた」と手応えを語る。2023年度で開発は一区切りとし、実用化を含め今後の方針を議論する。
ただ「現在は漁網などの浮遊物をセンシングできず、目視している」(同部スマートシップ輸送チームの織田博行チームエキスパート)といい、センシング技術の進展も求められる。
各社はこの技術を発展させ、OZTを用いて避航ルートを自動生成する技術も開発中で、将来は自律運航にもつなげる。国際物流を支える海運の技術が進化を続けている。