東芝がROS10%実現へ…成長領域に資源集中、人員削減・不採算部門撤退の議論避けられず
東芝は20日、上場廃止となり、74年続いた上場企業としての歴史に幕を閉じた。8年間の経営混乱を収束させ、唯一の株主となった国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)陣営とともに経営再建に挑む。データビジネスを軸にした企業へと生まれ変わる道筋を掲げるが、JIP陣営に出資した企業も含め、関係者の足並みが乱れれば再び時間を空費する懸念もある。(編集委員・小川淳)
「光輝く東芝を取り戻したい」―。22日、新たな経営体制で再スタートを切った東芝の島田太郎社長は直後の報道各社とのインタビューでこう力を込めた。
新経営陣では島田社長が続投するほか、JIP陣営から馬上英実社長、三菱自動車で副社長を務めた池谷光司副会長ら4人が取締役に就任した。東芝で馬上氏は取締役会議長を、池谷氏は副社長をそれぞれ務める。さらに取締役には中部電力の勝野哲会長、オリックスの井田明一事業投資本部副本部長も就任した。
取締役7人のうち島田社長を除く6人が東芝以外から起用となり、東芝とJIPおよび出資する企業連合が経営陣に参画することで、経営の立て直しを監視する。
島田社長は重視する指標として、売上高営業利益率(ROS)を挙げ、早期に10%へ引き上げる方針を掲げる。「成長領域や実力がある領域で国内外を問わず資源の最適な配分を進める」とし、事業のあり方を全面的に見直す。
その一環として、東芝インフラシステムズ(川崎市幸区)などインフラや発電、デバイス、ITをそれぞれ手がける主要4事業子会社を東芝本体に統合する方針を明らかにした。もうかる領域に人員や経営資源を配置すると同時に、間接部門を適切化し、利益率を高めていく。
ただ、2023年3月期の東芝のROSは3・3%で、目標とする10%達成にはかなりの開きがある。加えてJIP陣営による東芝の買収総額2兆円のうち、金融機関からの融資1兆2000億円は東芝が返済義務を負う。今後、人員削減や不採算部門の撤退の議論も避けられない。東芝は池谷氏を中核にプロジェクトチームを組織しており、構造改革を進めていく。
また、注力分野として短期的にはロームとの協業を発表したパワー半導体を挙げる。その後は「徹底したデジタル化を行うことで、データで稼げる会社へと変身」(島田社長)し、社会インフラや脱炭素などの課題を解決するプラットフォーム事業を強化し、収益力を高める。
15年の東芝の不正会計問題の発覚から始まった経営の混乱は「物言う株主」が去り、収束した。8年間の空費を取り戻し、東芝はよみがえることができるのか。そのためには東芝と新経営陣が成長と出口戦略を強く共有する必要がある。
インタビュー/パワー半導体、短期的な柱
島田太郎社長に今後の東芝の経営方針を聞いた。
―非上場化されました。
「安定的な経営基盤を持つことで事業に集中し、顧客のニーズにしっかりと対応したい。上場しているかどうかは全く関係ない。再び成長路線へと向かい、光り輝く東芝を示すことの方が重要だ」
―物言う株主が去りました。
「我々が上場していたときの問題は株主の人たちの意見が合わなかったことだ。どの方向性を打ち出しても株主総会で否決されるなど、前に進めなかった。(株主が)腹落ちする速度は今後の体制ではるかに早くなる」
―借入金をどう返済しますか。
「もともと安定的な収益基盤を持っている会社であり、着実に返済できると考える」
―主要4子会社を実質的に廃止します。
「統合するのは今のくくりが世の中に合っていないからだ。ニーズに合った会社の形に変化させる」
―不採算事業の撤退は。
「決定したことはない。皆が納得できる形でもうかるところに資源を再配分することは今までもやってきたし、今後も続ける。プロジェクトでコストが出ていたところもあり、契約を見直すなどさまざまな手段がある」
―東芝はこれから何で稼ぎますか。
「短期的には電気自動車などの需要でパワー半導体が飛ぶように売れている。供給量をできるだけ早く拡充する。中期的にはインフラのデジタル化だ。インフラの領域で投資だけではなく、プラットフォーム的に展開する。また、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)の問題も解決していく」
―原子力事業の見通しは。
「原子力の安全性を高めることをやらなくてはならない。安心して原子力の電源を使ってもらえるような状態をつくる。地球の未来を考えるとき、これを削除するというのはあり得ない」
―ROS10%の達成時期は。
「内部的にどういう理由でこの数字なのかは分かっている。それへの対策をすれば着実に可能と思っている。達成時期はあらためて発表する」
―再上場の考えは。
「私ではなく、株主が決めることだ」
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