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かばん・ペンケース・ランドセルにも変身、海洋プラ削減へ広がる「漁網」資源化の輪

かばん・ペンケース・ランドセルにも変身、海洋プラ削減へ広がる「漁網」資源化の輪

漁網由来の商品。バッグ、リュック、ペンケースなどラインアップが拡大

海洋プラスチック廃棄物問題の解決を目指す企業の連携組織「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」が、使用済みの漁網を素材に再生した商品を増やしている。かばんやペンケース、シューズ、そしてランドセルまで登場した。今後も商品化する企業を募り、漁網を廃棄せずに回収して資源化する循環の輪を大きくする。海洋プラスチック廃棄物で最も多い漁網の海への流出を防ぐのが狙いだ。(編集委員・松木喬)

かばんやリュック、ランドセルは兵庫県鞄工業組合(兵庫県豊岡市)、ペンケースはコクヨ、シューズは日本ケミカルシューズ工業組合(神戸市長田区)による商品だ。ほかにもドリームファクトリー(大阪市北区)のマッサージ器、ルートート(東京都渋谷区)のバッグもある。メーカーが異なっても漁網由来商品には共通タグ「for the Blue」が付いている。

漁網は北海道内の漁協や漁師から集めている。鈴木商会(札幌市中央区)が回収して異物を取り除き、溶かしてペレット(粒子状の物)に加工する。同社は漁網リサイクルの実績を持つリファインバース(東京都千代田区)と業務提携を結び、工場を建設した。製造したペレットは台湾に送って糸状に加工して再生ナイロン繊維を生産。その後、かばんなどの用途に応じた生地にして各メーカーで商品化する。

アライアンス・フォー・ザ・ブルーの野村浩一代表理事は「経済合理性によるプラスチック循環を作りたい」と意義を語る。近年は海岸に漂着したプラスチック廃棄物を原料とした商品を見かけるようになった。しかし、生産量が少なく、商品によっては販促物として無料配布されるケースが多い。アライアンス・フォー・ザ・ブルーは高品質で売れる商品にこだわっている。メーカーが利益を得て事業として成立すれば、漁網の回収を継続できるからだ。

また、漁網特有の課題もある。使用済みの漁網に付着している塩分が焼却炉を痛めるため、廃棄物処理業者にとっても処分が厄介なのだ。細かく裁断したくても特殊な機材が必要となるため産廃処理費用が高くなり、漁業関係者はすぐの処分をためらう。

漁網は1、2年で新品と交換するため、使用済み漁網の保管量が増えていく。そして、適切に管理されていない漁網の一部が海に流出していると考えられる。環境省の調査によると海洋プラスチック廃棄物の4割が漁網だ。

売り上げで藻場再生支援

漁網を廃棄せずに回収して資源化する循環の輪を大きくする

今後、再生ナイロン繊維を使った商品を製造する企業が増えていけば、鈴木商会は漁業関係者から適切な材料価格で漁網を買い取れるようになる。漁業関係者も費用を支払って処理していた漁網が売れるため、海洋流出を防げる。また、再生ナイロン繊維を低価格で安定調達できるようになるとメーカーにもメリットとなる。「規模を拡大し、大きな資源循環にしたい」(野村代表理事)と意気込む。その規模拡大には企業の垣根を越えた商品化が有効だ。

アライアンス・フォー・ザ・ブルーは漁網由来商品の売り上げの一部で、奄美大島の瀬戸内町(鹿児島県)の藻場再生プロジェクトを支援している。魚の産卵や生育の場となる藻場が失われる「磯焼け」が各地で起きている。消費者は漁網由来商品を購入することを通じて海藻を育てる活動を支援することになり、藻場再生による海の生態系回復に貢献できる。

アライアンス・フォー・ザ・ブルーは2020年、日本財団が発起人となって発足。川崎重工業や住江織物、セブン&アイ・ホールディングスなど50社以上が参加する。

企業連携による海洋プラスチック問題解決を目指しており、漁網の商品化が実績の一つだ。

日刊工業新聞 2023年10月27日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
漁網以外にも、必要なプラスチック製品があると思います。使用後の利用手段を考えることが重要と思いました。また1社だけが独占的に「良い格好」をしようと取り組むよりも、多くの企業で連携すると結果的に各社ともメリットを享受できて負担も減ると感じました。

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