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伊藤忠・住友商事・三井物産…大手商社が開拓するドローン事業の現在地

伊藤忠・住友商事・三井物産…大手商社が開拓するドローン事業の現在地

伊藤忠が扱うドローンはプロペラによる垂直離着陸と固定翼を生かした高速飛行が可能

大手商社による飛行ロボット(ドローン)を活用した事業創出の動きが活発化してきた。伊藤忠商事は垂直離着陸と高速飛行の両機能を持つ最新型ドローンを使って血液製剤を輸送する実証実験を重ね、2025年にも実用化を目指す。住友商事は荷物配送の非効率エリアでの利用のほか、田畑の空撮による生育診断など農業データの解析を推進する。商社の事業ネットワークを生かし、ドローンの用途開拓を進める。

伊藤忠は資本提携先のドイツのドローン開発会社ウイングコプターの新型機種「eVTOL型・W198」を使い、ANAホールディングスなどと連携し、5月と8月に血液製剤輸送を実験した。茨城県の河川敷上空を巡航時速90キロメートルで40分間、60キロメートルを自動・自律で周回飛行し、血液品質を維持できることを確認した。

同機種はプロペラを使った垂直離着陸の機能に加え、固定翼の揚力を生かした高速飛行もできる。最大飛行距離は110キロメートルで、マルチコプター型と言われる一般機種に比べ巡航速度は約3倍速い。

国内の物流網が発達しているため、伊藤忠は「ドローン輸送の対象には価格耐性と社会重要性が高く、緊急性も求められるモノが適する」(中田悠太航空宇宙第一課プロジェクトマネージャー)とみる。まずは血液製剤輸送の実用化を狙う。24―25年に離島・山間の無人地帯で目視外の自動・自律飛行(レベル3)の実証を予定するほか、伊藤忠が扱う新機種の認証制度の整備を前提に25―26年には有人地帯での実装(レベル4)を目指す。

一方、住友商事はドローン配送を手がけるネクストデリバリー(山梨県小菅村)などと連携し、千葉県勝浦市でドローンを物流に活用する。人手不足が課題の陸上輸送とドローンを組み合わせて配送の最終区間の効率化を図る。また、出資先で農業用ドローンを開発するナイルワークス(東京都千代田区)とは空撮で集めた生育データを解析するプラットフォーム(基盤)の開発を推進。「低コスト・低環境負荷で作物を生産できる仕組みを作る」(住友商事)とする。

三井物産は将来、ドローンや空飛ぶクルマ、ヘリコプターなどの機体が同じ空域に混在することを想定し、安全・効率的な飛行を実現する運航管理システムを開発する。ドローンを使った測量サービスを手がけるテラドローン(東京都渋谷区)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携し、24年1月に3度目の実証実験を予定し、26年度以降の商業化を目指す。

ドローンのレベル4の飛行が広がるには実証実験の積み重ねが必要だが、商社の事業創出力によって社会課題の解決やデジタル変革(DX)など商機が広がりつつある。

日刊工業新聞 2023年10月25日

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