事務方が批判の的に…理研の卓越研究員雇い止め問題、第三者委員会が報告書
理化学研究所の卓越研究員の雇い止め問題で、第三者委員会が報告書をまとめた。長期雇用を約束した上司の口約束は立証されず、書類を作成した事務方の無頓着さを指摘する内容になった。卓越研究員事業は若手研究者が安定かつ自立して研究できるよう支援する制度だ。この達成が難しく、政策運用や研究現場で柔軟に対応した結果、実態を把握していなかった事務方が批判の的になった。再発防止策で業務は膨らんでいく。(小寺貴之)
「ユニットリーダー(UL)の主張は知っている。それを裏付ける資料を探したが見つからなかった」―。調査委員会の大場亮太郎弁護士はULと上司との口約束についてこう結論付けた。口約束とは当該ULが卓越研究員に応募する際に、上司から2025年3月末までの雇用を約束されたというものだ。委員会の調査ではULが口約束を主張し、上司は否定した。意見の不一致はあるものの、雇用契約の記載にのっとり23年3月末の雇用終了は問題ないと判断した。
一方で理研の事業結果説明書には採用した卓越研究員の任期は7年と記されていた。7年だと任期終了は25年9月末になる。実際の任期は4年半。これが理研の補助金不正受給疑惑として国会で取り上げられた。
調査委員会は7年という表記は事務方が実態を確認せずに記載した無頓着さによるものだと判断した。他にも7年未満で転出した卓越研究員はいたが、それも含めて7年と記されていた。前年の書類をコピペ(切り貼り)したためだと指摘した。さらに4年半の任期の長さは同制度として問題があったとは言い難いという。
卓越研究員事業は若手の雇用安定化のために立案された。文部科学省が5年間資金を補助し、研究機関に10年程度の雇用を求める仕組みだ。若手には5年間でいい研究をして、その後のキャリアを開いてもらう狙いだ。ただ実際には簡単ではない。任期制から定年制へ転換するには研究機関がポストを確保する必要がある。これが増えない。
文科省は18年に10年程度の雇用確保を促したが、実態を鑑みて21年からは5―10年程度に修正している。理研では18年当時は10年間の雇用制限ルールがあり、4年半しか雇用できない状態で当該ULに応募させている。もともと理研は補助の出る5年を終えると定年制への移行が想定されている制度だと理解し、16年に同制度ができた当時は利用を見送った。だが文科省との打ち合わせを経て、17年から同制度を使い始めている。
理研は頭脳循環のポンプの役割を果たしてきた。そのため研究系職員の77%が任期制だ。定年制への移行は狭き門で、卓越研究員は任期中に上げた成果で大学などへ栄転することが求められる。政策も研究現場も制度を“柔軟”に運用して実態に合わせている。
問題はその実態が共有されない事務方だ。事業結果説明書に7年と記した事務職員は、研究者の雇用契約などにアクセスできず、前年の報告書を踏襲して記載してきた。調査委員会の岸郁子弁護士は「そもそも任期を書くことが求められている箇所でなかった」と指摘する。この7年の記載が国会で取り上げられ、事の発端となった。事務方の無頓着さが不正という誤解を生んだとする。
理研の加賀屋悟理事は「今後も必要に応じて制度を利用する。事務職員の意識向上をはかる」という。再発防止策として責任部署と人事部でダブルチェックし正確性を担保する。業務負荷は増す。調査結果を受け、五神真理事長は「人事制度の効果的な運用と改善に努め、より公正で透明な雇用環境を実現する」とコメントした。