三井物産が再生農業に参入…痩せた土壌の再生に隠れた商機
海外で需要増、食品原料の供給網拡大
三井物産は痩せた土壌の修復によって農業の生産性向上を図る再生農業に参入した。過剰肥料の抑制や複数産品の輪作といった農家への指導を通じて、再生農業を手がける米リニューアル・リソーシズ・グループ(RRG、カリフォルニア州)の子会社に資本参画した。農地に適した資材提供の強化に加え、再生農業由来の原料調達にシフトする海外食品大手との連携で事業の裾野を広げる。世界人口の増加で食料需給の逼迫(ひっぱく)が見込まれる中、再生農業をてこに食の安定供給を推進する。(編集委員・田中明夫)
三井物産は、再生農業で約20年の実績を持つRRGが1月に設立したRRGネイチャー・ベースト・ソリューションズ(カリフォルニア州)に出資した。RRGは投資家や食品関連企業などと再生農業案件を組成し、北米のほか中南米や豪州、アフリカで事業を展開している。三井物産の出資額は小規模にとどまるが、黎明期にある再生農業に国内商社が参入するのは珍しい。
再生農業は過度な耕起や農薬・化学肥料の過剰使用、単一作物栽培によって痩せた土壌を改善し、生産性を向上させる。減耕起による土壌微生物の活性化や豆科植物の植え付けによる窒素分の補填、天然由来の農薬・肥料の活用で自然環境を回復させる。三井物産は肥料や種子といった農業資材事業のネットワークを生かし、「農地への適した資材提供で持続可能な農業に貢献していく」(植村幸アグリイノベーション室プロジェクトマネージャー)考えだ。
また世界の人口増に伴う食料需給の逼迫が懸念される中、海外食品大手では再生農業由来の原料調達ニーズが高まっている。スイスのネスレは2030年までに主要原材料の50%を再生農業から調達する目標を掲げるほか、米ペプシコは再生農業の展開面積を30年までに約2万8000平方キロメートルに拡大することを目指す。
三井物産にとって再生農業は「食品原料の供給網の裾野を広げられる案件」(植村プロジェクトマネージャー)でもあり、農場向けの海水淡水化や太陽光発電といったインフラ整備でも商機がある。再生農業への参入を足がかりに強固な事業群の形成を図り、中期経営計画で柱の一つに掲げる自然資本の保全や食の安定供給によるエコシステム形成を推し進める。