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パソナが移転した「淡路島」が教えてくれる働き方のヒント

北川烈のモーレツ!会社訪問記

「淡路島といえば玉ねぎ」。東京生まれ東京育ちの私にとってはそれくらいの認識しかなかったが、2020年のパソナグループの本社移転以降、「淡路島が熱い」という話をチラホラ耳にすることが増えた。スタートアップ経営者の北川烈が気になる企業に突撃する「北川烈のモーレツ!会社訪問記」。今回は淡路島に突撃することにしました。

自然との一体感を味わう禅施設

明石海峡大橋を車で渡り、10分弱。山に囲まれた高台に巨大な木造建築物が姿をあらわす。
 禅リトリート体験ができる施設「禅坊 靖寧」だ。といっても、自然の中に突如あらわれる建築物という感じを一切抱かせない。

パソナグループ 常務執行役員の高木元義さんはその理由をこう語る。
 「設計にはこだわっています。建物には木材をふんだんに使っているだけでなく、建物の高さを山の稜線を超えないよう自然の中に溶け込む設計にしています」。

22年4月のオープン以降、予約が後を絶たない。世界的なマインドフルネス需要もあり、女性や外国籍の方も多く、企業の合宿等で利用される割合も高い。

地下1階・地上2階建てで、延べ面積は約1000平方メートル。1階に18室の宿坊やラウンジなど宿泊機能も完備している。
 2階の禅デッキは直線約100メートル。壮観だ。傾斜地から張り出した南側で広大な森林を一望しながら禅を体験できる。
 2階は大梁がないつくりになっており、空間がさえぎられないため、解放感がすごい。
 建物の中にいる意識がなくなり、宙に浮いているような不思議な感覚になる。

移転は突然ではない

2020年のパソナの淡路島の本社移転は大きな話題になった。「淡路島といえばパソナ」。そんな認識の人も多いだろう。
 実際、島内をまわるとパソナグループが開設した施設が目立つ。閉校となった小学校をリノベーションしレストランなどが入った複合施設「のじまスコーラ」や、漫画やアニメの二次元コンテンツを体感できるアニメパーク「ニジゲンノモリ」、ハローキティのシアターレストランなどなど。
 移転後に整備が急ピッチで進んだと思われがちだが、どうやらそれは違うようだ。パソナグループは2008年から淡路島での地方創生事業をスタートさせている。施設も移点前からあったものも少なくない。禅坊もオープンこそ22年だが、構想は8年前からあった。本社移転は社内でも議論が続いていて、コロナが後押しした格好だという。

「移住しても困りませんよ。私の場合、淡路島に住みたかったのが転職の大きな理由のひとつです」と語るのはパソナグループ関西・淡路広報部の福田亮助さん。自身もパソナへの転職を機に移住した。

パソナは本社移転時に2024年5月までに1200人に淡路で働いてもらう計画を示していたがすでに約9割に達している。
 また、決してパソナ社員だけが移住しているわけではない。淡路島への移住相談は2017年度に867件だったが、2021年は2倍以上の1927件となっている。淡路市役所には島外からの採用の応募も増えているという。

とはいえ、部外者からすると「島に住むのは不便ですよね」と思う。正直、私も淡路島で暮らして、働くなんて来島するまでは想像がつかなかった。「テレワークか淡路島に職場がなきゃ無理だよね」と思っていた。

だが、「遠そうで実は近い淡路島」なのだ。都会へのアクセスは悪くない。神戸までは車で30-40分ほど。「新神戸駅」から直通バスが1時間に最大4本出ている。島に暮らしていても関西圏に通勤できる距離圏内だ。テレワークや自営業者でなくても、住むのは「あり」だろう。

自然豊かで、農業自給率も高い。日本の食糧自給率は38%だが、淡路島は100%を超える。気候も温暖で日照時間も長いので再生エネルギーの活用もできそうだ。
 なんだか淡路島の宣伝みたいになってきたが、それだけの魅力が淡路島にあるのは否定しようがない。実際、別荘の建設も相次いでいるという。

多様性の時代といわれるが性差や国籍。年齢だけではない。働き方もひとそれぞれ、土地それぞれでいいだろう。淡路島ならば、例えば、半日働き、半日を海や山を楽しむ。釣りなど趣味に費やすのもありだ。そのための雇用やインフラは整いつつある。経営者として、これからの働き方をどうするか淡路島の自然はそのヒントを教えてくれた。(構成 栗下直也)

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