ロータリーエンジン復活ののろし、マツダが新型PHVで融合した強み
マツダが国内で電動車のラインアップを拡充する。14日、世界でマツダだけが量産化に成功したロータリーエンジン(RE)を発電機に用いるプラグインハイブリッド車(PHV)を11月に国内で発売すると発表。電池駆動のみで107キロメートル、REの発電分を合わせると約800キロメートル走行できる計算で、充電切れの心配がなく長距離走行したいユーザーに向く。同車種を欧州に2023年秋投入する計画も公表済みで、最大年2万台の生産能力を確保。マツダの電動車戦略をリードする車種となれるか注目される。(大原佑美子)
加工ライン刷新、年産能力2万台
発売するのはスポーツ多目的車(SUV)「MX―30ロータリーEV」。電気自動車(EV)と、モーター主体でエンジンを発電に使う「シリーズ式ハイブリッド」の強みを融合し、EVとしての使い方を拡張した新しい電動車として満を持してマツダが訴求するモデルだ。MX―30はこれまでにEVとマイルドハイブリッド車(MHV)モデルを国内で投入している。
同車種は走行の全てをモーター駆動とし、最高出力125キロワットの高出力モーターによりEVならではの滑らかで力強い走りを実現した。11年ぶりに発電用として復活するRE「8C」は、従来機で二つあったローター(回転子)を大型化して一つにし「コンパクトながら排気量そのものを拡大」(杉中隆司技術本部本部長)してEVモデルと同じ車体に搭載可能とした。軽量化のため、RE構成パーツのサイドハウジングを鉄からアルミニウムに素材変更。表面に高速フレーム法によるセラミックス溶射を施し、摩擦抵抗を低減した。
排気量830cc、最高出力53キロワットの8Cに、高出力ジェネレーターとモーターを組み合わせて同軸上に配置した。パナソニック系の電池モジュールを高密度に搭載し、バッテリーケースの高さを抑制。室内空間への影響を抑えながら容量50リットルの燃料タンクを搭載した。
8Cの効率的な量産に当たり、加工ラインも一部刷新。従来機で50あった切削工程を9工程に集約。汎用マシニングセンター(MC)1台で全てを加工できる加工法を開発し、寸法精度を50%改善した。将来の電動化車種の拡充時も効率良く加工・生産できるよう柔軟な車体生産を実現する「フレキシブルモジュールライン(FML)」で、需要に応じて年2万台の能力を確保した。
使い道自在、頼れる相棒に
ユーザーにはEVとしてのさまざまな使い方を訴求する。EVの電力を電気機器向けに供給するビークル・ツー・ロード(V2L)や、家庭で使えるビークル・ツー・ホーム(V2H)に対応。走行時には、できるだけ長くEVとして走行したい時の「EVモード」や、目的地でのキャンプなどの給電に備えてバッテリー残量を残しておきたい時の「チャージモード」など三つのモードを選択できる。
上藤和佳子商品本部主査は「環境に配慮しながら、運転中も、長距離走行も、ドライブ先でのアクティビティーも楽しみたい。緊急時には頼れる存在が欲しい顧客に、寄り添うパートナーとして乗ってほしい」とする。
今後REを動力源として使う可能性について、小島岳二取締役専務執行役員兼最高戦略責任者(CSO)は「ファンの要望はある。電動化の時代に、収益を上げられる状態になって初めて動力源で使うことを考えたい」と語る。マツダの代名詞とも言えるREで独自の電動化成長戦略を描けるか。MX―30ロータリーEVは、今後を占う試金石となる。
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