ニュースイッチ

関経連がCGコードに改訂案、企業統治に公益性重視・自律的な経営を

関経連がCGコードに改訂案、企業統治に公益性重視・自律的な経営を

イメージ

関経連など、「株主第一主義」に一石

日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治、CG)があらためて問われている。一連の「そごう・西武問題」では、株主の意向に対し、従業員や取引先、地域社会が反目するという異例の事態に陥った。会社法上の「会社は株主のもの」との資本の論理に一石を投じた格好だ。株主第一主義が格差を助長したとして世界的な見直しが進む半面、それに逆行するかのように、株主優先を余儀なくされる日本企業。11日に公表された関西経済連合会などの提言を踏まえ、日本のCGのあるべき姿を考える。

マルチステークホルダー、すべて公平に

CGコードのマイナス面も見逃せない(東京証券取引所)

「日本企業の弱体化はコーポレートガバナンス・コードが一つの要因になった」。経済官庁の元高官は、CGコードの弊害をこう指摘する。 2015年6月。日本企業が構造的変化に巻き込まれる歴史的転換点を迎える。上場企業を対象にCGコード適用が始まり、これを機に日本企業の短期志向に拍車がかかる。 それを裏付けるデータがある。早稲田大学スズキ・トモ教授の研究室がまとめた株主還元の推移によると、CGコード適用初年に当たる15年の配当総額は前年比25%増の約14兆6000億円に、自社株買いに至っては2・1倍の約5兆1000億円に急増した。株主優先の利益分配は現在まで続き、22年の配当と自社株買いの総額は過去最高の約27兆円を記録している。

株主還元(配当、自己株買い)と資金調達額

そもそもCGコードは安倍晋三政権下で定められた「日本再興戦略」の一つとして導入された。企業の「稼ぐ力」を高め、そこで儲けたお金を設備投資など事業の拡大・成長の原資とするほか、従業員の賃金アップ、株主への配当等々、広く国民に還元。持続可能な景気の好循環を実現するのが目的だ。しかし、結果として「CG改革で企業の成長はもちろん、投資や研究開発が促進されたとの結果は得られていない」(関係者)。賃金は増えず、投資も低調という日本の現状を考えれば、CG改革の勝者は投資家だけだ。

関経連などによるCGに関する提言のポイント

CG改革の柱の一つである取締役会の構成についても、産業界の不満は根強い。特に社外取締役を「少なくとも3分の1以上選任すべき(プライム上場企業の場合)」というルールに関しては形骸化しているとの声が多く聞かれる。ある大手商社首脳は、「社外取締役は無責任で非正規のパートタイマー」と吐き捨てる。中身を伴わない外形的な基準を追い求めるだけでは、実際のマネジメントに寄与しない実情が浮かび上がる。

関経連が公表したCGコード改訂案は、企業の社会性を重視し、自律的な経営を求める内容と言うことができる。株主だけではなく、顧客や従業員、取引先、地域社会を公平に扱い、バランスがとれた価値の分配を提言している。これは日本企業が長年培ってきた「企業は社会の公器」という哲学を再確認させるものであり、これからの企業のあるべき姿を投影している。

今回の提言は関経連が中心となり策定したものだが、公表は北陸経済連合会や中部経済連合会など全国7経済連合会による連名となった。わが国産業界は現行のCGコードをどう受け止めているか―。異例の共同提言は、その答えの一端を示している。

インタビュー

中長期の成長投資に懸念
関西経済連合会会長(住友電気工業会長)・松本正義氏

―「提言」は関経連を含む計7団体の連名となりました。

「19年にも提言を出したが、その時と比べ賛同してくれる団体が増えた。行き過ぎた株主重視への懸念が各地で広がり、公益性を重視するマルチステークホルダー資本主義への共感が広がっていると感じる。米国でも株主資本主義は格差拡大を引き起こしたとして行き詰まっている。日本はフォローすべきでない。政府、東京証券取引所にはこうした流れを受け止め、必要な制度の見直しを行ってもらいたい」

―東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正要請が、企業の株主偏重に拍車をかけたとの指摘があります。どうみますか。

「PBRやROE(自己資本利益率)は重要な経営指標と認識している。ただ企業がこれらを過度に重視すると、目先の数値改善を狙った安易な自社株買いが増え、中長期的な成長投資が後退してしまうリスクがある。そこで今回の提言においても自社株買いについて一定の規律を導入すべきと訴えた」

―提言にはCGコードの原則を緩めるよう促す内容もあります。そうすると不正防止などの観点でCGの実効性が下がりませんか。

「提言では一律の形式的な整備より、実質や企業の自律性を重視した柔軟性のある制度設計とすべきと訴えている。これは同時に企業に対し、説明責任やステークホルダーとの対話についても自主性・積極性を求めるものだ。結果的にCGの実効性を高める方向につながると考える」

―マルチステークホルダー資本主義が実現すれば、株主の圧力が弱まり経営者は楽になりますね。

「いや、まったく逆だ。多様なステークホルダーと対等に対峙(たいじ)して適切に分配し、きちんと説明する必要がある。ガバナンスの最後のよりどころは経営者の倫理観・道徳観だ。マルチステークホルダー資本主義では、その意識をより高くし、厳しく経営に当たらなければならない」

―具体的に企業は多様なステークホルダーとどう対峙すれば良いのでしょうか。

「住友電気工業ではお客さま、従業員、地域社会、株主・投資家、取引先の五つのステークホルダーを挙げ、それぞれに関し活動や数値の目標を掲げている。例えば社会貢献活動に税引後利益の1%目安を拠出するといった具合だ。住友グループは、商売人である前に誠実と努力を重んじ、人として人格を磨くことを説く『萬事入精』を大切にしている。マルチステークホルダー資本主義にも通じる考え方だと思う。住友グループに限らず、サステナブルな成長を実現してきた企業には、こうした理念が共通するのではないか」(後藤信之)

私はこう見る

自社株買いに量的制限を
東京大学大学院経済学研究科教授・大日方隆氏

日本企業において社外取締役が形骸化しているケースは多い。そもそも社外取は所属企業の社内事情に詳しくなれば、独立性が保てなくなる。かといって独立性を保った状態では監督力が甘くなる。実態に即して言えば、経営トップにざっくばらんに進言できるのは、身内のような関係にある仲間だろう。日本がガバナンスの手本とした米国でも、社外取が十分に機能しなくなっているとの指摘が出ている。

社外取が有効的に機能する可能性があるとすれば、取締役会での意思決定に関し事前チェックを担う役割だ。事前に、不正などが起きないシステムが整備されているか確認し、それが機能しているか監督するイメージだ。こうした役割なら監査役らと差別化できるのではないか。

自社株買いに関しては、米国が課税するようになった。その根底には財政難に加え「とりあえずやってみよう」という米国人の精神性がある。翻って日本は「課税の根拠がない」と判断するはずで同様の措置は難しいだろう。日本がとり得る対応としては、各社ごとの量的制限だろう。「発行済み株式総数の何%までOK」といったようにキャップをはめる形だ。検討する価値はあろう。(談)

日刊工業新聞 2023年月9月12日

編集部のおすすめ