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「作業の半分はロボット」掲げる鹿島、可搬型ロボを現場溶接に導入して得た効果

「作業の半分はロボット」掲げる鹿島、可搬型ロボを現場溶接に導入して得た効果

溶接技能者の工法をカバーするだけでなく、上向き溶接に対応する独自技術も完成した

鹿島は建築生産プロセスの変革に取り組む「鹿島スマート生産ビジョン」で、目標の一つに「作業の半分はロボットと」を掲げる。対象領域の一例が、高齢化や担い手不足に直面する鉄骨の現場溶接だ。「きつい・汚い・危険」の印象が強く、高度な技量を持つ溶接技能者は減少傾向にある。建物の高層化・大規模化で溶接への品質要求が高まる中、人とロボットが得意分野で協働する現場を志向する。(堀田創平)

鹿島は2015年にコベルコROBOTiX(神奈川県藤沢市)の可搬型溶接ロボット「石松」を導入し、足元で12台を運用する。鹿島建築技術部技術コンサルグループの藤本信夫専任部長は「適用部位や溶接姿勢、開先角度など必須の工法に加え、上向きや超狭開先など人手では難しい工法に対応する技術開発も終えた」と胸を張る。すでに適用実績は36件に上り、25年までに50件を目指す。

「石松」は主に工場溶接で豊富な実績を持つロボットだ。シンプルな機能と扱いやすさが好感され、他のゼネコンでも現場溶接の技術・工法開発に活用されている。約7キログラムの本体がレール上を一定の速度で走り、XYZと回転の4軸で動作することで連続・安定した溶接を実現。ワイヤタッチセンサーで開先形状を認識し、溶接に必要な条件を自動生成する機能も備える。

ただ、天候に影響されるだけでなく、製品の精度や鉄骨の建方精度で溶接部の開先角度が変動し得る現場溶接は「工場溶接とは環境が異なり、技術開発としてはゼロからのスタートだった」(藤本専任部長)。溶接技能者の知識や経験に頼る部分も目立ち、現場適用には「とにかくトライ・アンド・エラーと建設現場での適用・検証を繰り返すしかなかった」(同)と振り返る。

そこで立ち上げたのが、ロボット溶接を担う“専門部隊”だ。16年に、グループの鹿島クレスで溶接事業部を始動。オペレーターの採用から育成、ロボットの技術開発と施工、運用、品質保証まで対応する体制づくりが進む。同時に外国人技能実習生を受け入れ、溶接技能者を育てる試みも開始。すでに47人が資格を獲得しており、オペレーターとの多能工化を目指す動きも活発化している。

藤本専任部長は溶接ロボットについて「苦渋作業となる大断面や長尺の溶接に力を発揮できる。技能者を支援・補完する強力な戦力になっている」と手応えを示す。高い生産性への期待も大きい。例えば柱の溶接では、オペレーター1人がロボット2台を運用する体制を標準とする。同時に運用できるロボットを増やせれば、歩掛かり向上などもう一段の効果も見えてくる。

溶接技能者では難易度が高い25度の狭開先溶接(右)にも対応できる

溶接ロボットが現場で存在感を示すもう一つの理由が、上向き溶接や開先角度が0―5度と狭い超狭開先溶接でもこなせる適用範囲の広さだ。いずれも技能者には難易度の高い工法だが、鹿島の独自技術で対応を可能にした。超狭開先・狭開先溶接は溶接断面を小さくできるため、縮みや変形も抑えられる。溶接ヒュームや二酸化炭素(CO2)の減少にもつながるとみる。


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日刊工業新聞 2023年月8月29日

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