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「らき☆すた」「あの花」「ヤマノススメ」―聖地巡礼で地域活性化する埼玉県内の戦略

「らき☆すた」「あの花」「ヤマノススメ」―聖地巡礼で地域活性化する埼玉県内の戦略

名物「らき☆すた神輿」。運営するのは熱心なファンたちだ(久喜市商工会鷲宮支所提供)

アニメなどの舞台となった場所をファンが訪れる「聖地巡礼」。地方自治体が、それをてこにして地域活性化を目指す動きが全国各地で活発化する。特に埼玉県にはアニメ放映を機に誕生した聖地が複数存在。各自治体はファンの心をつかもうと、アニメにちなんだイベント企画や商品開発など手を打っている。コロナ禍でいったんは落ち込んだ訪問者数も増加傾向にある。埼玉県内の聖地の今を追い、聖地巡礼による地域活性化のヒントを探る。(さいたま・大城蕗子)

久喜市「らき☆すた」―16年経った今も

女子高校生の日常を描いた人気アニメ『らき☆すた』。その舞台となった埼玉県久喜市鷲宮には、放送終了から約16年経った今も多くのファンが訪れる。日本政策投資銀行が2017年に行った調査によると、らき☆すたが久喜市などにもたらした経済効果は07年の放送開始から10年間で約31億円に上る。人気の秘訣(ひけつ)は何か。

久喜市商工会鷲宮支所会員で、聖地近くで和菓子店を経営しながら、らき☆すた関連イベントの実行委員長も務める島田吉則さんは「ファンの声を聞きながら土産品の開発やイベントを企画してきた」と話す。

遠くから来るファンのために何かお土産を用意できないか―。アニメ放映後、熱心なファンのために用意したのは携帯電話向けの「絵馬型ストラップ」。1000個が30分で完売、2次販売では3000個を1時間で売り切る人気となった。またキャラクターの誕生日にはイベントを開催し、出演声優を招いたり、グッズを無償配布したりした。「目の前の利益ではなくファンに喜んでもらうことを考えてきた。それで間接的に経済が潤えば良い」(島田さん)と話す。

7月には鷲宮神社通りで「八坂祭」が4年ぶりに開催された。胴と屋根にキャラクターが描かれた名物の「らき☆すた神輿(みこし)」も登場。ファンが担ぎ、掛け声にキャラクターの名前などを連呼しながら聖地を練り歩いた。

リピーターも多い。同鷲宮支所の野村哲也経営支援員Aによると「何度も訪れることで地域の人と顔なじみになり、友人に会う感覚で鷲宮に来てくれるファンもいる」という。

秩父市「あの花」―ファンと交流、SNSを開設

鷲宮の成功事例を参考にした自治体もある。青春群像劇『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)』などの舞台となった秩父市だ。「鷲宮の事例を知りファンとのつながりを意識するようになった」と話すのは、同市産業観光部観光課の中島学課長だ。秩父市は古い神社仏閣のほか温泉などを有する県内有数の観光地だが、観光客は40代以降が多く、若者が少ないことが課題だった。だが11年にアニメ放送が始まると一変。多くの若者が押し寄せた。

秩父市はアニメファンとの交流に積極的だ(同市役所に設置したアニメキャラクターなどのパネル)

鷲宮の取り組みを知った中島課長は、「ファンがいなければ聖地は成り立たない」と気付き、交流サイト(SNS)を開設するなどファンとの交流を密にとった。キャラクターの誕生日会や地元の祭りとのコラボ、聖地を清掃するイベントなどを開催。さらに市民や商店街の人とファンが交流するスペースも設置した。

「ファンが帰ってくる場所をつくった。結果として、アニメのファンであり秩父のファンでもある人が増えた」(中島課長)と話す。あの花スタート前の観光客数は約390万人だったが、イベント開催などが奏功し、15年には約508万人に増加した。

20年はコロナ禍の影響で約382万人台に低下したものの、10月には例大祭「龍勢祭」が4年ぶりに本格開催されるため、秩父の街が再びにぎわいを取り戻しそうだ。龍勢祭はファンの奉納金で作るロケット花火「あの花龍勢」が打ち上げられるなど、注目のイベントで多くのファンが集う見通しだ。「23年の観光客数は500万人に戻るだろう」(同)と予想する。

秩父の夏を盛り上げる「龍勢祭」名物のロケット花火(秩父市観光課提供)

飯能市「ヤマノススメ」―市外からの移住者増加

飯能市は登山を通じた女子高校生の成長物語『ヤマノススメ』の舞台となった。そこで市が中心となりウオーキングイベントを始めた。コースに設置したスタンプラリーを楽しみながら歩き切ると、グッズがもらえる。

産業環境部参事兼観光・エコツーリズム推進課の吉田昌弘課長は「アニメの影響で市外からの移住者もいる」と話す。同市の観光客数は95年から統計をとっており最も多いのが19年の約410万人。コロナ禍の影響で200万―300万人台と落ち込んだものの、今年は増加に転じる見通しだ。

インタビュー:アニメツーリズム協会専務理事兼事務局長・鈴木則道氏

アニメ聖地を選定し観光資源の掘り起こしや観光客の送客などを担う、アニメツーリズム協会の鈴木則道専務理事兼事務局長に話を聞いた。

アニメツーリズム協会専務理事兼事務局長・鈴木則道氏

―聖地巡礼を経済活性化につなげるためには何が必要でしょうか。
「まずはファンを迎える地域の努力と、それに協力する作品側の努力が重要だ。聖地で目の前の風景と作品中のシーンを重ね合わせるのがベーシックな楽しみ方。そこでさらに作品側と連携して、聖地を記したマップやキャラクターのパネルを置いたり、作品と連携した商品を販売したりするとどうなるか。ファンは喜んでくれ、物品購入などの経済活動が生まれるだろう。ファン、作品、地域、地域を含めた事業者、この4者が同じ方向を向いていることが、アニメツーリズムを成立させるためのエコシステムとなる」

―地域の知られざる名所が注目されるきっかけにもなります。
「地域の人にとっては住んでる地域が聖地化することで、シビックプライド(地域への誇り)の醸成にもつながる。作品を通じて地域が持つ魅力をいかに引き出せるのかが、アニメツーリズムの行き着く先だ」

―他方、一部地域では急増した観光客が地域住民や自然に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」が社会問題となっています。
「アニメ聖地の功罪ともいえることで課題視している。協会としては冊子などを通じ注意喚起している。聖地といっても、そこで生活を送っている人がいることを忘れてはならない」

日刊工業新聞 2023年08月23日

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